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2010.02.01

代表コラム

油外放浪記第16回「車検専門ショップへの業態転換を考える」

従来型油外の凋落と自動車三品の台頭

SSの淘汰が、この2、3年で急加速するのではないかと心配しています。5年後にはSS数が半減するという話も聞きます。経営環境が急速に変化しているからですが、ガソリンに依存しないビジネスへの業態転換が望まれます。

そんな中、カーケア商品の中でも大きな柱である「車検」に追い風が吹いているようです。新車の販売台数が落ち込んでいます。エコカー減税によってハイブリッドカーは売上を伸ばしているようですが、その一方で、車を買い替える出費を抑えて古い車を乗り続けている人が少なくありません。疲弊する地方都市ほど、その傾向が顕著なようです。

カーディーラーによって囲い込まれているので、初回の車検はなかなか獲得できません。したがってSSには、2回目以降の車検、中古車の車検が舞い込んできます。 
車齢が長い車が多くなると、それだけ整備項目も多く発生し、車検の客単価が増えます折しも3月のピーク商戦に向かう時期ですから、今回は車検をテーマに書きます。

さて当社直営SSの11月の実績をご覧ください(表1)。

表は1SS当りの平均値を表します。
まず燃料油販売量。前年比40klも減販しました。Eメールやポイントセービングなどを行ってはいるものの、有力店割拠するガソリン110円台市場にあってフリー客の定着が図れず、非常に苦戦しています。

洗車・オイル・タイヤといった「従来型油外商品」も50万円減収しました。これらは給油を切り口に”プラス・ワン”を推奨して購入していただく商品ですので、燃料油と一蓮托生の関係にあります。 
景気のせいで「不要不急」のものを買わない人が増えたというのも理由でしょう。若者がカー用品に無関心になってきたこともありるでしょう。

年末に「次回のオイル交換を予約してください」と来店客にお願いしてみました。3年前なら承諾いただけるヒット率は、VIP会員で6割、一般客で2割でした。それが今や半減です。「お付き合いはもういいよ」と言われているようで気が滅入ります。

一方、好調なのが「車検」「車販」「レンタカー」です。私はこれらの商品を「自動車三品」と呼んでいます。
「車販」は微増ですが、「車検」と「レンタカー」はそれぞれ100万円伸びました。おかげで油外収益をトータルすると160万円増加し、ほっと胸をなでおろしています。 
自動車三品は必要に迫られたお客様が対象です。必要に迫られたとき、最も身近な存在である当店SSを選んでいただいたということだと思います 。

車検は「トイレの電球」

SS経営者は、新しい事業軸の確立を目指して頭を切り替えなければなりません。
私もSS経営者ですから、虚心坦懐にSSを見つめいろいろ考えます。

SSには車両通行量の多い道路に面し、走行車両から視認しやすく、入店しやすいという立地条件があます。車をメンテナンスしたり綺麗にする設備があります。長年商売して培ってきた地域の信用があります。そして育成してきた人がいます。 
これらの経営資源をイチから作ろうとするなら、ざっと1億円はかかるでしょう。

あるとき中古車レンタカーが好調なので、SS以外でも独立した店舗を構えてでやってみようと考えました。しかし、たとえば駅前にレンタカー店舗を作るとすると、店舗賃料とか駐車場などのコストが発生します。スタッフも、設備機器も新たに必要になります。改めて宣伝告知も必要です。こう考えると、不況業種といわれるSSに、実はありがたいインフラが備わっているのです。

1995年に道路運送車両法が改正された当時、「SSで車検ができる!」と確信できた方は、そう多くなかったと思います。当時、既存業界の車検サービスに対して、ユーザーはいろいろ不満や不便を感じていたわけです。ところがいつも給油しているSSは、便利な場所にあり、お客様を騙さないと信用され、教育された接客が提供され、価格は値頃感があります。SSのインフラを活かすことにより、今や「SS車検」は当たり前の商売となりました。

「車検」の商品特性を考えてみます。 
アフターマーケット市場は大きく2つに大別されます。「インプルーブメント(改善)」と「メンテナンス(補修)」です。前者はチューンナップなど、車の走行性能や快適性、居住性を高めたいというニーズです。 
後者を例えれば、”トイレの電球”です。ときめくような商品ではありません。しかし切れたら困る。わざわざ遠方の電気店に行って、何十種類の品揃えから選ぶより、近所で手軽に買って済ませたい。

車検もときめく人はいません。それどころか2年ごとに納めなければならない高い年貢です。でも車に乗るために、仕方なく買う。だから近所でさっさと済ませたい。こんな消極的なニーズに支えられています。

そのニーズを満たす最適ポジションにいるのが、SSです。カーディーラーや整備工場より遥かに身近な存在で、敷居も低い。だからSSは車検市場でトップを走っておかしくないのです。 唯一の弱点は「整備技術力が低い」というイメージ。これを払拭すればいいだけです。

車検専門ショップを目指そう

SSが環境変化に適応する一つの方向として、「車検ショップ」に業態転換する可能性を考えてみます。 
車検市場は2兆2000億円あります。この規模は中古車やタイヤと同様に、「専門ショップ」を生み出すに十分な市場規模です。現実にコバックとかホリデーなどチェーン組織も存在しています。

より身近な存在であり、給油もできるという優位性を持った車検専門店が、負けるわけがありません。給油に来る車は、すべて車検の見込客です。
100klのSSなら、毎月50台の顧客が必ずどこかで車検をしなければなりません。低年式車を中心に、その半数の25台を獲得すればどうでしょう。車検時の点検整備も含め、100万円近い粗利が毎月得られます。
200klのSSなら200万、300klなら300万円です。

付随して、ガソリン収益や洗車、日常メンテナンスの収益がプラスされます。生産性を考えてみます。1台の車検を受注し、事前点検や整備、通検、引き渡しを完了するのに要する時間は5~6時間です。1台当り4万円の粗利が得られるとすると、レバーレートは約8,000円。非常に生産性の高い商品です。

月間50台の車検を実施するためには、300時間の労働投入が必要です。1日当り10時間です。車検車両は作業中、SS内にあります。1台の車につきSS敷地のうち約3~4坪を10時間占め、4万円を稼ぐわけです。売り場の利用効率から見ても、高効率です。

「洗車専門ショップ」に業態転換した場合と比較してみます。洗車も「汚れを落とす」「汚れにくくする」というメンテナンス型商品ですから、「近場で買いたい」というニーズがあります。洗車は多くのスペースを要します。洗車機、タッチアップスペース、出入りの動線まで含めれば、SS敷地の半分近くを占有することも珍しくはありません。

20分の作業で得られる粗利はせいぜい1,500円ですから、レバーレートは4,500円。天候にも左右されます。何より「自分で洗う」顧客が半数を占めます。「洗わない」という選択肢もあります。このため市場規模は小さく、一番の競合は近隣SSでしょう。したがって他店との差別化がない限り、洗車専門ショップ化は困難と言わざるをえません 。

車検が売れる条件

SSで車検が売れるための三つの条件を整理しておきます。

(1)商品力を、周りの競合店と同等またはそれ以上のレベルまで高めること。
(2)その商品力が、顧客に浸透するまで徹底的に店頭告知すること。 
(3)車検の近い顧客に対し、手順を間違わずに意向確認すること。

よく「店長に任せたから」という社長さんがいますが、店長から「代車10台用意しました」と言われて「誰がそんなこと任せた!」と慌てる漫画のような光景が、実際に見られます。

組織の責任分担を明確にしましょう。
(1)の商品力の強化は店長任せにせず、社長の責任で行わなければ、売れる車検はできません。

(2)も社長の責任で行います。よく「車検取扱ってます」という店頭告知物は見ますが、信頼できる車検なのか、便利な車検なのか、価格はどうなのか、そういったことが顧客に伝わっていません。「車検でガソリン割引!」といった告知物もよく見かけます。ただ「おまけ」の話ばかりでなく「技術的に信頼できる車検ですよ」というアピールは、あまりに少なすぎます。 普段からお客様に対して商品力を告知し、「次回はこの店で車検をやってもいいかな」と思わせておくことが重要です。だから次の(3)が活きてくるのです。

(3)は車検のおすすめです。チラシを使って商談するSSが多いでしょう。しかしチラシというのは、目を引かせるための宣伝物です。「激安!」「ガソリン10円引き!」「ティッシュ50箱!」といった目を引くキャッチコピーが謳われています。でもこれをそのまま使って商談するのは間違いです。健康検診をしたいと思って医者に行くと「お客様、今キャンペーンだから注射1本サービスですよ」と言われたとします。こんな医者を信用しますか? 車検も同じです。まず、当店がいかに信頼できる車検ショップであるかを、理解していただくことから始めなければなりません。

当社のSSではお客様に対して、信頼感を視覚で分かっていただくために、話す手順どおり紙芝居のように見せながら説明しています。

①当店の車検台数実績
②そもそも車検とは何か? 

③当店の整備資格者 
④当店は整備工場であること 
⑤お客様の声 
⑥どんな車種の車検をやってきたか? 
⑦整備保証やロードサービスがついていること

こうしてお客様に信頼していただいてから、次に価格や利便性の説明へと続きます。そして一番最後に景品について説明し、意思決定を促します。また、この商談手順が錆びつかないよう、定期的にスタッフ研修で「研ぐ」ことも大事なことです。 
実際に車検が売れている実戦的な方法ですので、参考にしてください。

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