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2011.01.01
油外放浪記第27回「2011年「小売りの原点回帰」を決意」
ヤマダ電機と競合するとは・・・
明けましておめでとうございます。
弊社(株)MICは、石油業界のマーケティング会社として発足し、今年は、四半世紀の節目の年となります。創業当初は、毎日棘(いばら)の道を歩く気持ちでしたが、幸い多くの方々から応援を賜り、ここまで何とかやってこれました。y
21世紀を迎えた今、SS業界は「棘」どころか、抜き身の日本刀の上を谷渡りするような時 代を感じさせます。しかし、活路は必ず開けます。皆様と共に頑張りたいと思います。
と、格好よく書きましたが、最近弊社の直営SSと同じ商圏に、またしても「新たな強敵」 が出現しました。どこだと思いますか。
あの「ヤマダ電機」です。新車販売と中古車買取を始めました。チラシの注目度の高 さは群を抜いています。ポイント制も脅威です。ヘビーユーザーなら、貯まったポイントで軽自動車くらい買えるかもしれません。車を買ったポイントでパソコ ンや薄型テレビが買えたりもします。車を買った人なら、カーナピをポイントで買うかもしれません。
自動車の電装商品は、これまでカーショップがほぼ独占的に支配してきました。しかし、今後は家電量販店が主導権を握ることになるのでしょうか。
電装部品で止まるなら、まだいいのかもしれません。
もっと怖いと感じているのは、車を買ったお店に対する消費者の「帰巣本能」が強いことです。
メンテナンス、部品交換、洗車やボディーケアなどのアフターフォローは、買ったお店が任されやすい。つまり、ヤマダ電機で車を買った人は、カーケアでも価格競争力のあるヤマダ電機で行う可能性が高いのです。
当社のスタッフも「まさか、ヤマダと競合することになるなんて・・・」とぼやいています。
鹿児島県でも車を売る大手スーパーがあります。商品知識はセールスマンから教えてもらえなくても、インターネット上で、詳細な情報からユーザーレビューまで豊富に得られる時代です。これまでの流通チャネルが大きく変化していることを実感しています。
「レンタカー専業店」は厳しい
昨年3月に、当社は中古車レンタカー専業の「新横浜駅店」をオープンしました。
以前にも述べましたが、最悪の店舗立地であるにもかかわらず、商圏環境に恵まれ、また、利便性が高いことから毎月数百万円を売り上げ、目下のところ、全国ナンバーワンの位置を占めます。
しかしながら、固定費があまりにも大きく、毎月100~200万円の赤字を計上しています。事務所、駐車場、車両の受渡し場、そして洗車場がそれぞれ離れた場所にあり、その移動時間が人件費を押し上げているのです。
予測していたことですが、「事業実験」という観点から、需要過多の状況を多少なりとも
軽減するためにまずは10カ月間、試しにやってみました。
実際にやってみると、中古車レンタカーの業態特性を改めて確認することができました。
中古車レンタカー事業とは、価格設定を一般レンタカーの半額以下としながらも、 SSというインフラが業務に必要なコストを埋没させるがゆえに、「高収益を生み出す」というビジネスモデルを描いています。だから、コストのかかる専業店 で成立させるのは、きわめて難しいわけです。
そこで「新横浜店」を「兼業化」することにしました。
まず当社の「車販部隊」を新横浜店に移動し、車販とレンタカーを兼業します。これで人件費が車販ビジネスの埋没経費となります。
レンタカー業務を過重にしないため、車両台数を4分の1にまで減らし、他のSS兼業店に回します。
ただし、事務所家賃などが掛かるので、収支はトントンといったところです。時間のかかるオペレーションもそのままです。
SS兼業でやった場合と比較すると、「手間暇かかって儲けが少ない」ことがよく分かります(表1)。
整備業界の「勝ち組」のリピート戦略
最近、整備業界から中古車レンタカーに対する問い合わせが増えており、数多くの整備工場経営者と会って話をする機会を得ています。整備工場と一口に言っても、その格差は非常に大きいと感じます。「勝ち組」とそうでない所の差がはっきりしているのです。
代表例が「車検のコパック」チェーンに加盟している工場です。告知、接客、作業、 引き渡し、アフターサービスなど、マーケティングの流れがきちんと押さえられています。彼らの集客手段はチラシです。最近はwebサイトを磨き上げ、イン ターネットからの車検予約も増やしているようです。
新規の集客だけではありません。リピーター獲得もしっかりやっています。
「バイヤーズ・リモース」(buyer’s remorse)というマーケティング用語があります。
何かを買った後で、「本当に買ってよかったのか」と不安に思う気持ちや感情を「バイヤーズ・リモース」と言い表し、「買った後の深い後悔」という意味で用いられています。
「もっと品質のいい商品があったのではないか」「もっと自分にあったデザインがあったのではないか」「もっと安く買える店があったのではないか」
「もう少し待てば新商品が出るのではないか」「本当に今の自分に必要だったのか」
—高額な商品ほど、激しいバイヤーズ・リモースに襲われます。買った後になっ て、商品カタログを精読したり、他店の価格が気になったり、インターネットでユーザーの評価を見たりして、「自分の決断は間違っていなかった」のだと納得 しようとします。皆さんも経験がありませんか。
ですから、買った後にお店からフォローがあると「この店で買ってよかった」「これからも贔屓にしよう」と思ってもらいやすいのです。
整備業界には、「調子うかがい」という言葉があります。
「勝ち組」の整備工場は、これをしっかりやっており、車検の1週間後に電話して、お礼方々、「お車の調子はどうですか」と聞きます。たったこれだけのこと でも、お店の誠意が伝わります。そして、半年ごとに安全点検の入庫をお勧めします。オイル交換割引などの特典を付け、あの手この手のフォローを行います。
こうしてほとんど販促費も労力もかけることなく、次回の「車検を獲得する」のが彼らの考え方です。
アフター市場は成熟していると言われます。しかし、「勝ち組」の整備工場は、車検台数をしっかりと増やしており、「車検は儲かりますよ」と声高におっしゃいます。
以前、当社SSのリピート率を調べてみたことがあります。
恥ずかしいことに、たった30%でした
引っ越しや廃車などで自然減はあるにせよ、せめて6割はあるだろうと考えていただけにショックでした。新規客を獲得することばかり一生懸命になり、車検を購入した顧客のフォローがおろそかになっていたことを痛感しました。
そこで、車検事務のパートスタッフに、車検後の電話コールを義務付けました。その結果、 リピート率は50%に上昇しました。まだ改善の余地はあるので一層強化しているところです。
「勝ち組」の整備工場に「小売店の原点」を見た
整備工場の話に戻ります。
先方に出向くと、昔ながらの整備工場にしばしば遭遇します。スレート葺きの薄暗い建 屋、錆だらけの看板、今や存在しない損保会社の代理店章、油脂や紫外線で変色した応接セット、無精ひげの従業員・・・。馴染みの顧客はまだいいとしても、新規客はとても立ち入れない、そんな雰囲気が漂う整備工場が多いのも事実です。
レンタカー事業を行う上で致命的なのは営業時間です。「えーっ、夜9時までやるの」「土・日も営業しないとダメなの」といった反応が返ってきます。
ところが「勝ち組」の整備工場は違います。「店舗」として機能し、レンタカー兼業が直ちにできるケースがあります。
「整備業界は車検が自由化して以後、斜陽業種である」と一般論として言われてきました し、私もそういう先入観がありました。しかし、儲かり笑っている人たちがいます。
翻ってSS業界はどうでしょう。「SSは10年後に半減する」「車は脱石油化する」「車離れが進んでいる」「カーケア市場は縮小する」—などと言われています。
一般論としては間違っていないでしょう。しかし、自店をお客様にとってより良くしようという小売の原点を彼ら「勝ち組」の整備工場に感じ、猛省しています。
当社が最初に手掛けた店、第1号店が仲町台SSです。当時は1ベイで年間3500台の車検を行いました。月に415台実施したこともあります。当時は”車検命”でしたから、手探り状態ながらも、告知・商品力・スタッフのモチベーシヨンアップに全精力を傾注しました。
ところが今は指定工場を併設しながら年間2000台です。
同じ商圏内に2号店「茅ヶ崎SS」をオープンしたこともありますが、車販、レンタカー、カーリースなどの新しいビジネスが生まれ、それにかまけて、車検をおざなりにしてきたのも事実です。
車検以上におざなりにしたのが洗車です。以前は月500万円の洗車収益を上げていましたが、今は200万円です。「不況のため、洗車ニーズが減っている」「洗車の粗利益は大部分が作業人件費に消える。だから洗車に注力しても効率が悪い」という認識を持っていました。
これまた、この認識は一般論として間違いではないと思います。しかし、仲町台SSという個店で見た場合、数多くの洗車客に「バイヤーズ・リモース」を抱かせてきたことは、疑いの余地がありません。その結果、SS自身が洗車客を敬遠していたのだと反省しています。
SSの基本サービスも同様です。元売会社によるモニターチェックでは、当社のSSは最低ランクに位置付けられていました。しかし、私はあまり気にしていませんでした。
でもそれは間違いです。お客様と直接顔を合わせる小売店で、接客態度や会話のひと言ひと言がお客様の心証に影響を与えないはずがありません。
基本サービスの重要性について整備業界に教えられました。
本連載タイトル「油外放浪記」に自戒の念を込め、2011年は、一般論は一般論として 受け止めつつ、それに流されることなく「小売り業の原点に回帰しよう」と決意しました。