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2011.03.01
油外放浪記第29回「ボーダーレスの車検市場にあっていかにSS車検を強化するか」
SS車検は頭打ちか?
先般、NHKで当社の育児支援制度が紹介されました。
当社では、育児期間中の女子社員が育児の都合に合わせて働ける制度を設けていますが、それが取材され、首都圏限定でしたが放映されました。
「女性に優しい企業」と格好を付けているつもりはありません。
かつて当社の女子社員は、結婚・出産イコール退職でした。しかし、よく考えてみると、1人の社員が仕事に慣れるまでの教育訓練に費やす労力とコストはバカ になりません。業務に習熟した社員が出産のたびに退職する、社員を補充する、また、イチから教育訓練するという繰り返しです。
まるで賽の河原で石を積むようなものです。
つまり、きわめて経営上の観点から、育児しながらでもいいから辞めずに働いてほしいと考え、設けた制度なのです。それが横浜市から表彰されてしまい、あちこちのメディアから取材されるようになりました。
働く人に対する考え方は、業種業態、経営環境、経営者の個性などによって異なるでしょう。何が正解か分かりませんが、当社では役に立つ制度です。
さて、前置きが長くなりました。車検市場が一段と厳しくなっています。
車両保有台数の横ばいが続く中、エコカー減税の影響から車検を通さず、廃車にされる車が増えました。また、新車販売台数が3割以上減少したため、下取り車両が減少し、中古車マーケットも質の良い車が少なくなっているようです。
SSに限らず、自動車関連業界が全般的に青息吐息です。
そんな今、最も確実な事業領域は、法定需要がある「車検」です。
前回、カーショップの車検攻勢について述べました。
が、今まであまり車検に注力していなかった業界—中古車販売店、鈑金工場、タイヤショップなどが、こぞって車検に群がり始めています。そのあおりでしょうか、SS車検が頭打ち状態に陥っている話をよく耳にします。
専門業者と新規参入者の攻勢
運送会社が車検市場に進出している事例があります。
当初は、自社で所有する車両の車検整備を内製化するためにトラック流通基地内に指定工場を設けたわけですが、最近は外販に取り組み始めています。
長野県の電鉄会社が設立した整備工場が、コパックやアップルのように車検をチェーン展開している事例は、SS業界でも注目されました。
この「クリア-25」という車検システムは、車検工程をお客様に見せながら25分間で完了するものです。
長野の本部では、毎週30万枚のチラシを撒き、4カ所の整備工場で年間3万台の車検を実施
しているといいます。1億円の販促費をかけ、8億円の車検収益を得る「力技」です。さらに、給油設備まで併設し、車検客にガソリンを特価で販売しています。
こんな業態が各地に出できたら大変ですが、先の運送業者も「クリア-25」の採用を考えているそうです。
私たちSSも、かつては車検市場に対する新規参入者でした。ですから文句は言えません。
格闘技「K-1」よろしく、いろいろなジャンルのプロが、「車検」という共通のリングで闘う、そんな様相を呈しています。
車検リピーターを増やそう
さて、当社とお取引いただいているA社の例を挙げます。
直営6カ所のSSで月平均450台の車検実績を挙げていますが、そのうち6割をリピーターが占めます(グラフ1)。
つまり、2年前にA社のSSで車検を実施した人の6割以上が、今回もまた同じSSで車検を実施していることを意味します。
一方、当社が運営する仲町台SSは月平均150台の車検を行っていますが、リピー ト率は3割でした。当社は来店客、商圏客に対する告知活動に重点を置いて車検獲得に血道を上げてきました。そして、毎月入庫する車検台数について、多いの 少ないのと評価していたわけですが、その内訳はあまり気にしていませんでした。
気が付けば、リピート率はたったの3割。転居したり、車を買い替えた人もいるでしょうが、せっかく獲得した車検客の7割を、他店に奪われていたわけです。
A社が素晴らしいのは、リピーター獲得のための施策をきちんと打っていることです。
つまり、車検を実施した1カ月後、6カ月ごと、そして、次回車検の3カ月前に、必ず電話コールをしています(表1)。
しかも、そのために本社に専属のパートスタッフを2名配置しています。当初は、SSスタッフが電話コールを行っていたとのことですが、見事に失敗したようです。
日々の油外収益を追いかけるのに忙しくて徹底できない上、1、2件のクレームを受けた途端、SSスタッフが委縮してしまったからだそうです。
SSは一般的に、新規獲得には熱心ですが、既存客の維持には無頓着です。一方で、整備工場は当たり前のように顧客管理を行っています。
「ガソリン」という高頻度の来店商品を持たない彼らは、既存客のフォローに力を注ぎます。
先の「クリア-25」やコパックなどの車検専門店でも、リピート率は6割程度だと聞きます。既存客をまずしっかりと守り、その上で、猛烈なチラシ攻勢によって他庖の顧客を奪っているのです。
その結果、顧客管理をしない当社のようなSSは、いくら店頭で頑張っても、リピート率は3割程度のもの。でも、パートを2人置いただけでこれが6割になるのですから、きわめて安い投資です。
そこで、さっそく当社も同様の対策を講じました。すると、リピート率は5割にまで上昇しました。
車検マーケットに揺さぶりをかける
かつてSS業界は、得意とする販促策で車検市場に参入し、整備業界に大きな打撃を与えま した。しかし現在、SS業界はガソリン減販時代が到来し、市場環境が一層厳しさを増していることから、販促活動が盛んには行われていません。
したがって、整備工場の販促活動が相対的に活性化しているというのが、現在の「車検シェア争い」の構図です。
SS業界も、まずは車検客の過半数を占めるリピーター対策にもっと注力すべきです。その上で、整備工場の販促策に対抗するのが賢明な判断です。となれば、SSの業態特性や立地の優位性を、もっと有効に使ってみてはどうでしょうか。
例えば、POPです。計量機の「ISU」(アイランド・サービス・ユニット)の辺りに、「車検が得意な当店はすでに1万台の車検実績を誇ります。
車検を予約されますとガソリンが10円引きになります。詳しくはスタッフにお聞きください」—などといったPOPを貼るだけで、必ず何台かの車検が獲得できます。
近ごろ書店に行くと、店員による「手書きPOP」をよく自にしますが、その訴求効果は高いと感じます。お客様はPOPをよく見ています。そこから情報を読み取り、購入の意思決定をします。POPはSSスタッフに代わって「無言の声かけ」を行う貴重な存在です。
それにもかかわらず、雑多な告知物が無造作に置かれたSSは少なくありません。SSスタッフの質を向上させるのと同じくらい「店頭POP」の質にも気を配りたいものです。
整理すると、車検のターゲットは3つあります(表2)。
①まずはリピーター。
前述のように、車検後から定期フォローしていくことが重要で、本社に専属スタッフを配備するのが有効でしょう。
②商圏客を獲得するのに最も有力な方法は折り込みチラシです。
しかし、10万枚も撒けば、50~60万円のコスト負担を強いられます。
③店頭で車検を取るのはSSの独壇場です。
来店客の車検ステッカーを確認してから「声かけ」「商談」をする、シンプルな活動をいかに徹底するかがカギを握ることになります。
その際、POPは有効な援護射撃となります。 POPの考え方をさらにもう一歩進めて、広く商圏に対する情報浸透の手段とすることも考えたいと思います。
車検には、「ガソリン」のようにナショナルブランドが存在しません。車検は、SSがその 商圏限定で販売する「プライベートブランド」商品です。
ですから、車検名、技術品質、割安感、利便性といった情報を商品ブランドとして構築し、これらを商圏内で認知してもらうためには、会社として、継続的に情報を発信し続けなければなりません。
折り込みチラシが最も効果的ですが、継続的に実施するとなれば、コスト負担が増し ます。 でも、駅ポスターやパス車内ポスター、歩行者や車の通行量が多い場所での「野立て看板」など、比較的安価な宣伝広告を用いる手段もあります。つまり、通勤 や買い物のたびに車検ブランドが目に入るようにして認知してもらい、車検の時期が近づいたら、インターネットでアクセスし、来店していただくという寸法で す。
こうした人の行き来する場所に情報を投げておき、web上の店舗に誘い込む方法を、当社では今、試行しようとしています。機会があれば、その結果についてご報告します。
今回は、やや概念的なことを述べましたが、車検市場におけるSSのシェアを維持し、さら に拡大するための有効な方法について、今一度構築し直す必要があると考えます。それは前述したように、店頭スタッフの努力のみに負わせるものではありませ ん。
「図1」に示すように、リンゴ1つ1つをピンポイントで狙い撃ちし、その精度を高めることも大切なことですが、しかし、発想を切り替え、「リンゴの木」全体を揺さぶれば、リンゴを自然に落とすことができるのです。
車検のコールセンターを用意したり、車検ブランドを告知し浸透させることにより車検市場に揺さぶりをかけ、ひいては、SSビジネスをより強固なものにしたいと決意を固めています。