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2022.03.31
油外放浪記第160回 脱炭素時代を想定してみました
久しぶりに営業利益が月間ギネスを更新
当社は、売れ筋の中古車をタイムリーに仕入れて商品化(架装)するための専任組織(および設備)を保有していることを本稿で幾度かお伝えしてきました。
これにかかる経費は、最初は本社開発費としていましたが、昨年4月にSSの負担としました。
それ以来、SSの営業利益は長らく前年を下回り続けていました。しかし、とうとう昨年12月、前年を上回ることができました(表1)。
2020年12月の営業利益は、既存6店合計で2,700万円となり当時の月間ギネスを記録しました。そして、今期12月は3,000万円。ギネス更新です。
赤字基調だった新規店、小田原東IC店も昨年12月は(かろうじて)黒字になりました。
しかし、手放しで喜ぶことはできません。
油外粗利は1,100万円増えましたが、経費もほぼ同額が増加しました。燃料油の販売量およびマージンが改善したので、その分が営業利益の改善に寄与したわけです。
巷ではコロナ第6波の到来でざわめいています。悲惨な状況にならないことを祈るばかりです。
車販は絶好調 車検が伸び悩み
目先のコロナも心配ですが、長い目で見ると、SS業界へのダメージがより確実視されるのが、脱炭素時代の到来でしょう。
影響を受けるのは燃料油だけではありません。自動車販売にも大きな影響がおよぶと予想されます。
先に述べたとおり、当社は「中古車商品化センター」を設置したおかげで、車販業績が著しく伸びました。長年、油外収益の王座にあった車検を追い抜き、ナンバーワン商品となりました(グラフ1)。
しかし今の車販スタイルが、今後も保証されるわけではありません。
コロナが中古車オークション市場の混乱に拍車をかけていますが、EV(電気自動車)や、FCV(燃料電池自動車)が普及する時代にあってなお、中古車市場がそのまま維持されると考えるのは、あまりに楽観的でしょう。
当社のSSは今、車が面白いように売れているし、生産性も高いので、現場は車販に夢中です。その一方で、車検が頭打ち状態に陥ってしまいました。無意識のうちに優先順位が下がってしまったようです。
これが問題です。
脱炭素時代へのカウントダウンが始まった今、もう一度、車検軸を立て直すことこそが、当社のリスク分散になると考えています。
なぜ今、車検を改めて主軸商品にするのか
➊脱炭素時代にあっても車検制度は維持される
車のエネルギーが変化しても、仮に、運転者がAI(人工知能)になる時代が到来したとしても、公道走行の安全性は担保されなければなりません。定期的な車の検査は不可欠です。
また車検は、国内の全車両に最低限の保険を付保し、効率的に徴税するための制度でもあります。
したがって、この車検制度がなくなる可能性は低いと考えます。
➋需要が大きく生産性も高い
国内の自動車保有台数の伸びは、2010年代に安定期に入りました。
しかし、それでも6,000万台を数えます。たとえば、SSの半径5km圏に10万台の車があれば、毎月3,000台の車検需要が発生します。そして、商品力や販売力を強化するほどに市場占有率(シェア)は伸びます。
しかも車検の生産性は1時間当たり8,500円(表2)。申し分ありません。
➌顧客との信頼関係が構築できる
大多数の自動車ユーザーは、車検を「究極のメンテナンス」と意識しています。したがって、 車検を委ねたら、その店(整備工場)を強く信頼してくれるようになります。
信頼を獲得した店には、整備だけでなくモビリティライフ全般のニーズが寄せられ、優位な立場からカウンセリングセールスができます。
➍販売しやすい
車検は、お客様のニーズがフロントガラスに貼ってある、稀有な商品です。必要性と「いつ買うか」は、国が決めてくれます。こちらから啓蒙したり説得する必要がありません。お客様は「どこで買うか」を判断するだけです。
ですから、他店より信頼・安心できる車検であることを伝えれば売れます。
給油客に対して標準手順どおりにアプローチすると、少なくとも4割以上が注文してくれます。
しかも、2年ごとにリピートしてくれますので「ストック型ビジネス」(継続的に収益を積み上げられる)となり、収益を計画しやすい商品です。
➎競合が弱い
車販の競合は、大手メーカー系列のカーディーラーや、大手チェーン店が主体です。
一方で、車検の競合は、地場の中小企業が主体です。顧客接点の多いSSは、互角以上に戦うことができます。
ー以上の理由から、車検を主軸にしようと決めたのが昨年の秋です。プロジェクトチームを結成し、商品や販売手順の弱点を補強する施策を検討してきました。
今年1月に、SSスタッフたちにお披露目しました。今年も1~3月にかけて、恒例の車検キャンペーンを全店で実施します。これが新たな車検商品を内外に周知させ、新しい販売手順をスタッフに習得させる機会となります。
この5年間に何をすべきか
かつて、日経ビジネスが「企業寿命30年説」を唱えました。
当社が創業30年の節目を迎えたのは2015年のこと。以後、わが社はライフサイクルを衰退させないため、「5ヵ年計画」を立てて、社内発表しています。
「第一次5ヵ年計画」は2016年7月~21年6月まで。
年間5,000万円以上の営業利益を生むSSを2ヵ所つくる計画でしたが、3ヵ所を実現できました。
今は「第二次5ヵ年計画(2021年7月~26年6月)」の端緒についたところです。「脱炭素時代に向けた体勢構築」が主眼です。目標値を(表3)に示します。
さて、ここからは実際に見てきたように「脱炭素時代のSSビジネス像」を記しますが、あくまで私個人の想定であることを、事前にお断りしておきます。(なお文中は、内燃機関自動車のことを分かりやすく「ガソリン車」と称しています)
➊燃料油は壊滅的打撃
ガソリン車が制約されるのは2030年からです。しかし、その数年前からメーカーはガソリン車をモデルチェンジしなくなるでしょう。したがって「ガソリン車」イコール「古臭い」というイメージとなってしまいます。購入をためらう者たちが増えます。たとえ購入しても、リセールバリューは期待できません。
今のところ、政府はハイブリッド車も許容していますが、いずれにせよ、燃料油需要は大きく減少します。
市場が縮小すると、SS同士の過当な価格競争が再燃するかもしれません。燃料油口銭の落ち込みも懸念されます。
…そういうわけで、当社の第二次5ヵ年計画は、燃料油で稼げる最後の5年間と位置づけました。
顧客接点を生かして信頼関係を築いていく最後のチャンスでもあります。
➋車販事業はなくなると覚悟する
当社の車販ビジネスは、1店当たり月間20台を販売できるまでに成長しました。しかし、将来、車の小売り事業そのものが存続できなくなるかもしれません。すでに新車リースの分野では、メーカー直販が始まっています。
私は、現在の車販事業の余命は5年と覚悟を決めました。残された期間、力の限り車販事業で収益を確保し、来るべき事業投資のための原資をつくる方針です。
脱炭素時代に主流となるのはHV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド自動車)か、FCVや、BEV(電気自動車)か、まだ分かりません。新車や中古車の流通がどのように形成されるのかも分かりません。
また、充電設備が今後どう進化するのか、あるいは充電サービスの業態もまったく不透明です。
いく通りもの可能性が考えられますが、いずれにせよ、現在のガソリン車を中心とした販売ビジネスは、その構造自体の大転換を余儀なくされると考えています。猶予期間中に、目一杯収益を確保しようと思います。
➌レンタカー事業は安泰
レンタカーは、販売努力をしなくても現状で1店当たり月間500万円の収益を上げる、ありがたい商材です。SS事業との兼業なので、損益分岐点が極めて低く抑えられ、高い競争力を示します。
また、新車であるほどコスパが高まることや、ニーズの多い車種に集約するほど利益率や業務効率が向上すると分かるにつれ、車両構成を改善していくたび固定客数が増加しました。利益率も40~50%に改善しました。
そのレンタカー事業ですが、今後も右肩上がりで需要は増加すると目されています。所得格差は、今後も拡大すると見込まれるので、車を「所有」しない者たちがますます増えます。しかし、自由な移動手段を求める需要は変わりません。
たとえば、半径2km圏に5万人以上が居住する立地条件の店(当社にも4店あります)で、100台のレンタカーを保有すれば、月間売り上げ1,000万円、営業利益500万円を安定的に確保できるのです。
こういう店は、レンタカーだけで存続できます。あとは時代に合わせ車両を変えていくだけです。
➍車検から始まるLTV
お客様が生涯を通して企業にもたらしてくれる利益のことをLTV(顧客生涯価値)と言います。LTVを高めるには、顧客の利用頻度や利用期間を最大化することが重要です。
その入り口に「車検」を位置づけたいと考えています(図1)。
「車のことなら絶対この店」と考える顧客を一人また一人と増やしていきます。
さらには、モビリティサービスにとどまらず、生活全般にコミットできるよう、業態展開していくことができればいい、と夢見ています。