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2021.08.10
油外放浪記第154回 SSが短期に黒字転換するための3要件
営業利益が半減
当社直営SSは、「営業利益の月間記録更新が、17ヵ月目で途絶えた」と先月号で述べたばかりですが、6月は、さらに悪化してしまいました。
既存6店の6月の営業利益は合計1,140万円。前年同月が2,200万円でしたから、半減です(表1)。
燃料油は販売量が微増したものの、マージンが激減したため、粗利はマイナス470万円。
油外粗利は1,000万円伸びました。その立役者は、レンタカーです。昨年はコロナ禍で減車しましたが、すっかり回復しました。
しかし、油外収益の伸びが鈍化しているのが気になります。昨年夏以降、中古車販売が活性化したおかげで、前年比1,000~2,000万円のレベルで伸び続けていましたが、1周りして、いよいよ伸び切ってしまったのでしょうか(グラフ1)。
粗利益の増加以上に経費が増加
6月の経費増が1,600万円。その要因は次の2つです。
➊レンタカー費が前年比400万円増加
レンタカーは、8月に大量の需要が発生します。これを獲得するには、十分な供給量、すなわち車両台数が不可欠です。そこで今、全店ともに増車しています。したがって6月、7月はコスト先行とならざるを得ません。
ただしこれは、8月に解消します。なぜなら、8月に獲得する大量の新規客がリピーターとなり、秋以降も継続利用してくれるため、1店当たり100万円レベルで売り上げが上昇するからです。地域密着型「生活レンタカービジネス」の醍醐味がここにあります。
➋新コストセンターをSS負担とした
当社は、SSとは別に、空港前に出店しているレンタカー専業店が8店あります。こちらは観光・出張需要がメインのため、コロナダメージがいまだ回復していません。
昨年、各地のレンタカー専業店から人員を集め、プロジェクトチームを立ち上げました。販売用の中古車を仕入れ、架装(商品化)し、各SSに搬送・在庫するのが仕事です。
その後も人員強化や設備投資を進めており、今年からこれを正規部門に昇格させました。月間約1,000万円かかるコストセンターです。
このコストを、4月からSS負担としました。
この経費増は課題です。月間300台を仕入れ、SSに供給する能力がありながら、SSの販売力がこれに追いついていません。
いつ黒字化するか?
分からなければSS出店は恐ろしい
当社は昨年、「2025年までに直営SS数を20箇所にする」と計画しました。毎年平均3店舗を新規出店することになります。
その一環で、今年に入ってから、小田原東IC店と新百合ヶ丘店を運営継承したわけです。
オープン当初は、「客づくり」にどうしても時間がかかります。すなわち、商圏内認知、来店客の会員化、関係強化、信頼獲得。そのうえで、クロスセル、アップセルによる客単価向上というプロセスが必要です。これに時間がかかり過ぎてしまうと、累積赤字が積み上がります。
そして、累積赤字店を複数運営してしまうと、当社のような中小企業は体力が持ちません。
そこで新規店は、半年以内に単月黒字、1年以内に通期黒字が必達条件となります。
しかし果たして、そんなことが可能でしょうか。当社直営8店が、いつ黒字化したかを調べてみました(表2)。
ため息が出ます。
どの店も1年以内に黒字化できると信じてスタートしたわけですが、途方もない時間がかかっていたことに愕然とします。
1号店の仲町台店にいたっては、黒字転換まで265ヵ月(約22年)。よくもまぁ我慢したものです。いや、最初に分かっていれば、SS事業に絶対に参入しませんでした。
ところが、短期間で黒字化した店もあります。その要因を調べてみると、(A)商材、(B)販売ノウハウ、(C)人員構成の3つに絞られました。
SS黒字転換までの道のり
1号店の仲町台店がオープンしたのは、「特石法」が廃止された(1996年3月末)直前、道路運送車両法の改正により車検制度が見直された(解禁された/95年7月)直後のことです。
当店は、一般的なSSが取り扱うガソリン、洗車、オイル、タイヤだけでなく、いち早く車検をラインナップしてみました。
SS経営は、ど素人です。折込広告などで繰り返し告知すれば、こぞって買いに来てくださるだろうと考えていました。
ところがいくら販促費を増額しても売れません。
後になって「いや増田さん、声かけをしないと油外は売れませんよ」と教わりました。
なるほど、給油客に洗車をすすめたり、エンジンルームを点検して提案すると、確かに売れます。背に腹は代えられません。人の教育、配備、管理という「賽の河原の石積み」のごとき苦行が始まりました。
しかし、取り扱うのは生産性の低い商品がほとんど。やればやるほど経費は増加し、収益が追いつきません。
その経験を生かし、2号店のセンター南店は、油外商品を買ってくださる約2割のお客様だけに声かけをしてみました。いわゆる「優良会員制度」です。
その効果はてきめん。L当たり油外粗利は50円以上に跳ね上がりました。
・・・その栄華も束の間、センター南店をセルフ給油方式にした途端、どのお客様がVIP(優良客)か判別できなくなり、迷走を始めます。
2004年、05年に運営継承した平塚店、所沢店は、最初から郊外型セルフスタンドとしてスタート。06年に車番認識システムを開発・設置したことにより、来店車両の属性がリアルタイムで分かるようになりました。
これを機に、まずは車検の店頭販売ノウハウの確立が始まりました(他の油外商品もいろいろ試しましたが、どうしても生産性が合いません)。
そして08年、当社はレンタカー事業を試作し各店に投入しました。これは車さえ用意すれば勝手に売れる、極めて生産性が高い商材であることが分かりました。
13年、当社は車検倍増5カ年計画を立てました。5店で年間4,000台の入庫がありましたが、18年までに8,000台にしようという計画です。
以来、車検販売策をゼロベースで見直し、いろいろ試して、ノウハウの完成度を高めてきました。
車検とレンタカーのおかげで、まずは住宅商圏の仲町台店とセンター南店が利益化し始めます。
もう1品あれば、郊外立地の3店も黒字化します。
その救世主となったのが、16年に投入した「新車リース」です。たまたま適任者が配備されてた寒川店が、蟻地獄からあっさり抜け出ました。
こうして車検、車販、レンタカーが黒字化商材となったわけです。販売ノウハウが確立し、そのスキルを持った人材を配備するにつれ、どの店も安定黒字を出すようになりました。
そして、これらを最初から投入したのが、6号店の堀之内店です。
初めての自己投資で建築し、出店した損益分岐点の高い店ですが、オープン4カ月目にレンタカーで900万円を売り上げ、単月黒字となりました。そして徐々に車検や車販の人づくり、顧客づくりが進み、9ヵ月目以降は毎月黒字、16ヵ月目に累積赤字を解消しました。
SSの「短期黒字転換」の要因まとめ
➊商材
SSで売れ、そのスタッフが取り扱うことができ、高い利益が確保できる商材を扱うことが、SS黒字化の一丁目一番地です。
「無駄な努力はない」と言いますが、無駄な努力はしないに越したことはありません。
SS経営の入り口は車検、車販、レンタカーを品揃えること。平均販売量300klのSSなら、月間1,800万円の油外粗利、年間5,000万円の営業利益を得ることができます(グラフ2)。
➋販売ノウハウ
品揃えの次は、販売ノウハウです。集客、販売、アフターサービス、リピート販売という流れを作ることになります。
車検、車販、レンタカーは、当社が得意な「エリアマーケティング」に適していることが幸いしました。特にレンタカーは、インターネットでどんどん集客できます。
試行錯誤した結果、CPO(受注1件当たり販売経費)が割に合う販売方法(表3)にまとめました。
➌人員構成
堀之内店や新百合ヶ丘店は、オープン直後の収益の半分をレンタカーが担ってくれました。販売スタッフがいなくても新人アルバイトで運用できるので、瞬時に収益化します。
ところが、同じようにオープンした小田原東IC店が苦戦しています。ローカル商圏であるため、レンタカー需要を形成するのに時間がかかっています。
その代わりに、車検・車販で稼ぐべきだったのですが、それに適した人員を配置できませんでした。
グラフ3は、6月の人件費効率(油外粗利÷人件費)を比較したものです。商材ラインナップは全店同じ。小田原東IC店の人件費は寒川店とほぼ同じ。
にもかかわらず、寒川店は人件費の2.3倍を稼ぎ、小田原東IC店の稼ぎは、人件費とほぼトントンです。
車検や自動車販売スタッフは、半年~1年をかけてじっくり育てるか、すでに育った人を配置するかのどちらかです。小田原東IC店は、後者にすべきだったと反省しました。そこで7月、同店の社員6名中、4名を入れ替えました。仕切り直しをして再起動です。
新百合ヶ丘店は攻めの一手
これに対して新百合ヶ丘店は、オープン当初からレンタカーがブレイクしました。加えて、販売マネジメントに長けた店長、スタッフを配備したので、車検も上々の滑り出し。
6月は1,880万円の油外粗利を稼いでくれました。9月にも累積赤字が解消しそうです。
それでもまだ取りこぼしが多いようです。思った以上に車検とレンタカー市場が大きいので、整備士とレンタカー車両を増強することにしました。
レンタカー収益を駐車場に制限されたくない
ところで、一般的な住宅立地の店であれば、レンタカー収益は車両台数にほぼ正比例します。新百合ヶ丘店の場合、6月は50台ですが、8月までに100台近くにする予定です。
となると、必ず課題となるのが「車両置き場」をどうするか。
店の近くに集約できる用地を確保するのが理想です。当社も郊外店は難なく確保できました。
しかし都心の店は、近隣に用地を見つけても、地主さんや既存業者(コインパーキングなど)との交渉に時間がかかってしまいます。したがって、最初から店の近所にこだわってしまうと、いつ黒字化するか分かりません。とりあえずは、遠くの場所を分散して、多少不便でも借りることになります。
100台の車両を有する仲町台店も、現在の駐車場(近隣2箇所に集約)に落ち着くまで10数年間、あちこちで契約・解約を繰り返してきました。
新規オープンした新百合ヶ丘店もそうです。50台分の駐車場を、店から徒歩7~10分かかる4箇所に分散して借りています。
50台の車を用意すると、月間約600件のご利用があります。
つまり、スタッフは店と駐車場を最大600回往復することになります。片道10分として月間200時間、時給1,200円として24万円の人件費がかかります。1台当たり5,000円弱のコストは許容範囲ですが、現場はたまりません。
そこで、電動キックボードを2台購入しました(写真1)。
ナンバー登録し、ヘルメットをつければ時速40kmで公道を走れます。重量は15kg、女性の力でも持ち上げられ、折り畳めば車のトランクに入ります。
やってみて大正解でした。半径2km圏なら車庫証明を取得できるので、まだまだ増車できそうです。