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2021.10.05
油外放浪記第156回 脱炭素時代の到来を前にきびすを返して振り返る
車販の設備投資が重くのしかかる
当社のSSは4月以来、4カ月連続して営業利益が前年を下回りました。
既存6店の8月の営業利益は合計3,600万円。前年8月は3,800万円でした(表1)。
粗利益が1,000万円伸びたものの、経費が1,200万円増加しました。
これは新設した「中古車商品化センター」にかかる経費を、4月からSS経費として計上したためです。
新規2店の明暗くっきり
すでに述べてきたように、当社は年間5,000万円以上の営業利益を安定確保するSSづくりに邁進してきました(これを当社は「ニコニコステーション」と呼んでいます)。
SSによって格差はあるものの、ようやく昨期、平均営業利益が5,000万円に到達しました。これをもって、「ニコニコステーション」のビジネスフォーマットは一応の完成を見たと考えています。
これを受け、今期からはSS拠点数の増加に転じています。6店だったSS数を、5年間で20店に増やすという計画です。
その第一弾として、今年1月に小田原東IC店、2月に新百合ヶ丘店の運営を継承しました。
今最も危惧するのは、赤字を垂れ流す店が出ることです。赤字の店が他の店の足を引っ張ると、出店計画も頓挫します。
そこで新店の店長には1年以内に黒字化することを必須条件としています。
現実はどうか。
新百合ヶ丘店は予想以上に順調です。計画を上回るペースで黒字化し、8月は150万円の営業利益を出してくれました。すでに安定黒字基調です。
問題は小田原東IC店です。
敷地面積が狭く、商圏規模も小さい店なので、当初から苦戦を予想してはいました。
できるだけ初期費用を抑え、ハードルを下げて挑んだのですが、やはり苦戦を強いられています(表2のA)。
当初の計画では、車検販売とレンタカーに期待をかけ、550万円/月の油外粗利を見込んでいました。
しかし、現実の油外粗利は300万円ほど。4~6月の3カ月間で、1,000万円近い累積赤字を出しました。
想定以上に販売力の弱いSSでした。
もとより同時給油4台、掛け売り中心のスタンドをセルフ化しただけのハード設備です。顧客接点を生かした油外商品の量販は望めません。
地元商圏は河川、高速道路、鉄道路線により分断されています。ミラーリングなどによる広域告知も、3月の車検需要期こそ76台の入庫がありましたが、一過性のお祭り騒ぎ。地域に根差すには、相当の時間がかかることが分かりました。
重点商品を変えて収益増スタッフ若返りでコスト減
そこで7月、小田原東IC店の体制を一新しました。
店長には、車販を得意とする若手のI君を仲町台店から抜擢。副店長には、寒川店で車販スキル の高いMさんに白羽の矢を立てました。ちなみにMさんはアルバイト歴10年のベテランで、子供に手がかからなくなった2年前に正社員に登用した女子社員です。リーダーシップに優れ、副店長に任命したのは次期店長候補生として育成するためです。
2名の整備士も若手に交代させました。
これらにより人件費が大きく減少、さらにレンタカー台数も半減させたため、損益分岐点が100万円近く下がりました(表2のB)。車販スタッフを増強した効果は目覚ましく、車販粗利が90万円から200万円へと倍増。毎月300万円以上出していた赤字がみるみる解消し、8月に黒字化しました。
黒字化すると、今までやりたくてもできなかった部分にコストをかけることができます。運営継承した当時のままだったセールスルームを改装しました。9月にはリフトを増設します。「当初の到達目標」ー油外粗利700万円、営業利益200万円が現実的になってきました。
いったん立ち止まってみる
ところで、私が年間5,000万円以上の営業利益を安定的に上げるSSをつくろうと決意したのが2013年です。
その道は険しく、結局7年かかってしまいました。7年という期間は、環境が大きく変化するに十分な時間です。
たとえば、コロナによって人々の行動パターンや価値観が変化しました。
そして、「脱炭素化」の大津波です。石油販売業界や自動車業界にもゆっくりと、確実に押し寄せており、未曾有の大変動の予感に総毛立つ思いです。
当社はこの7年間、無我夢中で突っ走ってきました。しかし、今までの「油外収益かき集め作戦」が今後もそのまま通用するとは思えません。
そこで、いったん立ち止まり、今後を見定める必要があります。
表3は、当社SSの7年間の業績の推移(1店当たり月間平均値)です。
➊MF販売量が44kl増え、燃料油粗利が145万円増えました。
➋油外収益が1,000万円増え、2,000万円近くになりました。
➌経費が800万円増え、1,800万円になりました。
➍利益が400万円増え、赤字から月間400万円、年間5,000万円となりました。
レンタカーは投入コストが売上増に直結
さて利益を拡大するために油外を重点化し拡販してきたわけですが、これには経費の増加を伴います。
経費の増加以上に粗利が増加すれば、利益が拡大するわけです。
そこで当社は、増加粗利(Income)÷増加経費(Cost)X100を「ICバランス」と呼び、重要指標としています。ICバランスが100%を下回ると、「経費倒れ」「危険信号」というわけです。このICバランスの推移を「グラフ1」に示します。
ICバランスが100%を下回ったのは2014年、18年、20年の3回。
逆に、絶好調だったのが2015年と19年。2回とも投資額の7倍稼ぎました。
決して順風満帆の7年間ではありませんでした。
油外商品の中で、比較的ICバランスが安定しているのがレンタカーです(グラフ2)。車両原価が経費の大部分を占めますが、たとえば、50台増車して減価償却費の増加額は200万円。しかし、収益は400~500万円増加します。
2020年のコロナ第一波で、一時、ICバランスを崩しましたが、コロナの影響はSSレンタカーに及ばないと分かった今、元に戻りました。
ICバランスを保つのが難しいのが車検と車販です。車検増収のためにはリフトの増設や整備士の増員が不可欠です。車販は、車の仕入れ・商品化に大きな設備投資がかかったことを冒頭に述べました。商品開発や広告宣伝もかかります。
車検・車販ともにコスト先行とならざるを得ず、かけたコストに見合う販売力をつけるには時間がかかります。
SS車販ビジネスはこれでいいのか?
当社は、2020年のコロナ第一波に対応するためにレンタカーを大量処分したことから、車販の有望性に気づきました。
多くの人、モノ、カネを車販に注ぎました。中古車検索サイトなどの利用にも踏み込んでみたところ、予想外に売れました。
どんどん車販市場に踏み込み、とうとう「中古車商品化センター」なる月間500台ものキャパを持つ車両仕入れ·商品化拠点までつくってしまいました。
「骨はひろってやる、どんどんやれぇ!」と突進させたのは私です。
こうしてたった1年で、1店あたり月間20台以上の販売実績、多い時は50台近く販売するようになりました。
そして気がつけば、周りは強力なライバルがしのぎを削る弱肉強食のジャングルです。乱売戦、消耗戦の世界に迷い込んでしまったようです。
かつてガソリン乱売戦で私たちが経験してきた、あの世界です。
かつての安値乱売
もともと「SS利用客の半数以上を自店の車販客にし、車のあらゆるニーズを根本から囲い込みたい」との思いから始めた車販ビジネスです。なのに、いつしか当店利用客以外のお客様がメインターゲットになってしまいました。
SSとして、このまま突き進んでよいものか。
潮目が変わったのは、カーボンニュートラル政策の発表、「2030年前半までにガソリン自動車販売禁止との昨年12月のアナウンスです。
国を挙げて「脱炭素社会の実現を目指す」となった今、SSというビジネスフォーマットを保有していながら、クルマ屋さんと同じ土俵で自動車販売にのめり込んでいてよいのだろうか…。そういう思いが正直強くなってきました。
内燃機関車が市場から締め出される時代が、ひたひたと迫り来ています。にもかかわらず、国内の車販市場は、レッドオーシャン大乱戦。
そもそも中古車オークション(AA)から車を仕入れることさえ、ままならない状態が「常態」です。商品を普通に仕入れることができなければ、商売になりません。
仮に、仕入れられたとしても、仕入れ金額高騰で販売マージンが圧縮されます。販売はWEBサイトでの戦いです。お客様は価格比較しますから、利益がどんどん削られます。そして、仕入れ資金は青天井に積み上がっていく…。
ガソリンの乱売競争がイヤで、油外販売のブルーオーシャンを求め、私の「油外放浪」が始まりました。その挙げ句、レッドオーシャンの世界に紛れ込んでしまっています。
このレッドオーシャンには、町の小さなクルマ屋さんもたくさん存在しますが、主力は大企業です。ガリバー(イドム)、ビッグモーター、ネクステージといった名だたる上場企業、さらにはトヨタ、ホンダといったメーカーまでもがエンドユーザー直販市場に参戦してきました。
人も資金力も圧倒的に勝る大企業を向こうにまわし、正面戦闘を挑んでいくわけです。仮にピンポイントで勝てたとして、どれだけの労力と時間を空費することになるでしょう。「ゼロ・エミッション時代」の到来まで、僅かの時間しか残されていません。当社には、空費する余裕はない、と判断します。
SS油外の原点は車検
当社は今一度、「ブルーオーシャン」の領域に立ち返ろうと考えています。
「SS本来の強み」ー圧倒的な 顧客接点を活かして戦おうと。
まずSSレンタカーは間違いなく「ブルーオーシャン」です。自由なモビリティは人間の根源的な欲求ですから、車の動力がどのように変化しようと、レンタカーニーズは不滅です。
次に車検。意外に思われるかもしれませんが、車検は「ブルーオーシャン」です。
理由は簡単。ライバル企業が弱小だからです。町のモータース、あるいはそれに毛の生えた程度の車検チェーン工場だからです。カー用品店やカーディーラーも、主力商品でないが故に、おざなりに車販客の車検需要を防衛するだけ、本気で車検客を獲得しようとしません。
現在当社SSには年間1.3万台の車検入庫があります。リアルな店舗で顧客接点を持つわれわれが、もっともっと注力することで、2万台、3万台に拡大することも可能だと考えます。
そして、車検客の「買い替え需要」を丹念に拾っていきたい。そうすれば、年間2,000台、3,000台の車販につながるはず。その道は必ずや見つかるでしょう。あとは車の動力源が電気だろうが水素だろうが、お客様のニーズに対応すればいいだけです。
ここに来て当社は原点回帰。車検を軸足に、点検、整備、鈑金、保険、車販へと芋づる式に顧客ニーズを取り込んでいくことに決めました。