車検市場の混戦を再認識
当社が初めてSSを運営したのは1995年ですから、もう15年前のことです。マーケティング会社がSSに「新規参入」したことは、注目と共に激しい批判にも会いました。
この年は道路運行車両法が改正された年でもあります。車検は「検査」と「整備」が分離され、ユーザー車検が可能になりました。さらに1997年には工場資格の取得要件も緩和され、車検制度は完全に自由化されました。
これを機に、SSは続々と車検に新規参入するようになりました。これまで整備工場とカーディーラーが独占していた市場に、新たなチャネルを切り拓いたのです。既存業界から見れば、この新規参入者は「価格破壊者」と映りました。
SS業界に新規参入する業界も、スーパーやホームセンターなどいろいろあります。 しかしそれは、局地的限定的な存在です。しかし車検業界にはSSやカーショップが組織的に参入したので、既存のカーディーラーや整備業界も激しく対抗策を 講じざるを得ず、全面戦争の様相を呈しています。
前回述べたようにヤマダ電機が中古車の売買を始めたり、ヨドパシカメラがEVを販売するなど、新たな兆候も現れており、無視できません。
カーショップは近年、「用品大量販売」業態から「整備メンテナンス」業態へと大き く転換しつつあります。オートバックスの店舗売上げが前年をやや下回る中、車検・整備とメンテナンスは前年実績を上回っています。少ない月でも数%、多い 月では30%近くの伸び率です(表・グラフ1)。車検は年間50万台に上るそうです。
これまで私はSSという業態を中心に据えた「車検ビジネス」というものを考え、そしてSS業界に提案してきました。しかし卯年の新年にあたり、車検ビジネスをもう一段階挑躍させる必要があると感じます。
車検は異業態と競合する混戦状態、すなわち「レッドオーシャン市場」(血の海)で す。ですから多様な選択肢の中から「当店の車検」を選んでもらうためには、「SS車検」であることは、あまり大きな意味を持ちません。「SS車検」ではな く「車検」なのです。それは異業態に負けない様々な仕掛け、技術・商品力が求められています。
SSの店頭活動だけでは5割しか取れない
SSで車検ビジネスを推進するポイントを上げます。
①店頭での見込み客の発見
②商談手順の徹底とプロセス管理
③ルーティーンの教育指導
④目標設定、日々の管理、信賞必罰
これらを地道に進めることです。
—といった話をすると、SS経営者の皆さんは「その通りだ」と非常に喜んで同 意されます。これらは正道であり、間違ったことではありません。21世紀に入って、ガソリンの低マージンン化が恒常化し、さらにガソリン需要の頭打ちにな りました。そんな中、店頭活動の「原点回帰」がSS業界の世論となっています。
「店頭の人的努力で苦境を打開した」というストーリーは美しいものです。
こうした空気のもとでは、販売促進によるコストアップは”ノーサンキュー”の嵐でした。
販売促進をなりわいの一つとする当社としても、直営SSの店頭活動の成果をフィードバックしつつ、中古車レンタカーなど新たなビジネス軸を提案することとなりました。
ところが、SS以外の整備事業者、たとえばコパックチェーンの優秀店の経営者たちと意見交換する機会があり、SS業界の「人的努力一辺倒」の風潮に大きな違和感を覚えるようになりました。彼らは、車検獲得に必要なコストは掛けているのです。
たとえば、月間300台の車検を行うコパック店では、毎月70~80万円の販売促進予算を計上しています。彼らはガソリンのような高い来店頻度を保証する商品を持ちません。
自店の存在と車検商品を知ってもらう手立ては、新聞折り込みチラシ、車検対象車両に対するミラーリング、あるいはホームベージに頼るしかありません。1台の車検客を獲得するために、7~8千円のコストをかけています。
販売促進費が委縮する一方のSS業界に対し、異業態は今もしっかりコストをかけています。
この温度差が非常に気になりました。
そこで当社直営SSで車検を実施していただいた340人のお客様に、「当社の車検をどこで知りましたか」と聞いてみました。
その結果、DM、インターネット、折り込みチラシなど、SS店頭以外の販促活動によって車検を実施していただいた方が過半数に達し、SS来店客に対するPOPやスタッフによる商談は3割程度でした(表・グラフ2)。
無闇な「販促NG」はSSを破綻させる
「聖域なき車検販売」すなわちレッドオーシャン市場で異業態と渡り合うには、石油業界の理屈を気にしていては、消費者がついてきません。
効果的な手立ては学び、やってみる。費用対効果が合えば文句はない筈です。(表・グラフ2)の告知方法には、それぞれにコストがかかっています。そこから得られる車検粗利を費用対効果とし(表・グラフ3)にまとめました。
もっとも収益が高いのが「DM+電話」です。これは2年前に当店で車検を実施していただいたお客様が対象です。コスト8万円に対し、30倍の収益です。
リピーターですので費用対効果は高いですが、何もしなければ他社のチラシやDMに誘われ、リピート率は極端に減少します。
最もコストを要しているのが「新聞折り込みチラシ」です。
DMと違い、商圏内から広く「新規客」を見つけるのが目的です。しかしこれもコストの5倍の収益がもたらされます。コパックが熱心にチラシやミラーリングを行っている理由が分かります。
次に「店頭POP」。これはSS来店客に対して、当店の車検商品力を常日頃から認知してもらうことを狙っています。SSという高来店頻度の業態特性を存分に活かす方法で、懸垂幕や店頭看板などの制作コストです。これも収益効果は6倍あります。
そして「インターネット」や「Eメール(携帯メール)」からの受注と続きます。web告知のコストは比較的低いコストで済みますが、今後広がる領域だと思います。
さてもう一度(表・グラフ3)をご覧ください。店頭活動だけだと当社の車検実績は半分以下になってしまいます。つまり半分以上のお客様に対しては、当店の車検を選ぶ機会が失われるわけです。
車検はすべての車所有者に義務付けられていますが、積極的に買いたい商品ではありません。年貢のように嫌われています。ですからほとんどのお客様は「受け身」の情報の中から選びます。
それだけに、店の方から積極的に情報を発信し、品質、価格、利便性を知っていただく必
要があります。
ライバル業態は車検に本気
車検を「事業」として位置づけるのか、あるいはSSの「補助収益」と考えるか、会社の方
針の違いはあるでしょう。
後者であれば、顔なじみのお客様や親戚縁者など店頭活動で対応すれば十分です。事業として考えるなら「車検市場」の中で競争し、勝たなければなりません。
何度も書きますが、競合業態は必死です。ガソリンを持たず、SSよりはるかに規模が小さい整備事業者が、毎月100万円近い販促費を投入しています。覚悟が違うのです。
オートバックスは、中期経営計画の中で「車検整備」を大きく位置づけたと聞きます。
すでにテレビでは人気女優の相武紗季さんを使い、「車検にシンケン」「かしこい選択」というコピーを流しています。中核事業化のために、今後もネットワークの拡大と商品力の強化を図ることでしょう。
自動車保有台数が減少に転じる中、車検市場はますますレッドオーシャンの度を強め るでしょう。しかしガソリンよりはるかに生産性が高いのが車検です。そのシェアを他業界に奪われるのを指をくわえて見ているわけにはいきません。当社は、 業界常識に左右されることなく「聖域なき車検販売」にチャレンジしてゆきます。