燃料指数5を達成しても
赤字に陥るとは
この原稿を書いている9月初旬時点では、米軍がシリア空爆に踏み切るかどうかが話題となっています。
シリアは産油国としては小さな国ですが、周辺国への影響もあり、原油高騰や石油危機の引き金になりかねないと取り沙汰されています。SS経営者の1人として気になるところです。
ーーと大きな話をしながら、「SSの現場」の厳しさは今日も変わりません。他社のSSはどうなのか、気になるので経営実態をヒアリングしてみました。
全32社(計200SS)にヒアリングした結果が「表1」です。当社とお取引いただいている会社がほとんどですが、32社中12社(約4割)は燃料指数が5以下です。数年前と比べSSの体質改善が随分進んでいることが分かります。
しかし、32社中20社(約6割)の燃料マージンが損益分岐点を下回り赤字でした。燃料指数5以下の会社でも、12社中7社(約6割)が赤字です。燃料指数目標を達成しようと頑張っても、そのゴールがどんどん遠ざかっているのが実態ですね。暗然たる気持ちになります。
悲嘆に暮れるばかりでは経営者は務まりません。
多くのSS事業者が今後重点的に取り組むテーマとして、「車検」を挙げておられます。「やっぱり車検ですね」という声をよく聞きますが、当社もオイル、タイヤ、車販などいろいろ試してみて、結局、車検に戻っています。車検に集中投下するのが最も生産性が高く確実性も高いでしょう。
それからレンタカーですね。
「ほっとけ」で売れるレンタカーを起死回生の商材と期待している経営者が多いのです。
秋はレンタカーを「売る」季節
「表2」は当社の直営5カ所のSSの8月実績です。分かりやすく1SS当たり平均値を示しています。
例年、8月はガソリンとエンジンオイルの販売量が伸びるものの、しかし、それ以外に「売り物」はなく、収支が厳しくなる月でしたが、今年は何とか黒字になりました。
その要因は、まずガソリン価格が値上げされたお陰です。口銭がL当たり4.3円得られたため、燃料油粗利は1SS当たり60万円改善しました。
次に車検です。8月は季節指数が低い時期にもかかわらず、年初から実施してきた車検倍増活動が奏功し、1SS当たり30台増加しました。
そしてレンタカーです。レンタカーは8月が最大の需要期です。今年も大きく利益貢献してくれました。車検が平月の半分しかないので、その不足分をレンタカーが埋めてくれた形です。 さて、今回は久しぶりにレンタカーについて述べます。
夏休みはレンタカー車両は毎日フル稼働しました。車両を増やせばどこまでも売り上げが伸びるので、昨年は夏に向けて、一気に台数を増やしました。ところがSSのフィールドは待機中のレンタカー車両で埋め尽くされ、人手も取られるため、あまりレンタカーを増やしすぎるのはよくありません。
そこで今年は車両を増やしませんでした。直営5カ所のSSで計150台としました。
ただし秋になると、レンタカーの需要は縮小します。ならば需要に応じて供給量も調整すればいいわけです。中古車レンタカーの面白いところは、在庫をお客様に販売できることです。
つまりレンタカーとしての運用益を得、さらにその後に、販売益を得る–いわば油外の「二期作」が実現できます。
レンタカーはSSにとって非常に販売しやすい商材なのです。
一般的なSSの車販は、無在庫販売方式です。お客様の希望を聞き、オークション会場の出品車両をインターネットで検索する、予算交渉をして落札し、これに整備加修その他、手数料を加えて販売します。
この方式は在庫リスクがないのが魅力です。しかしその反面、スタッフに高いスキルが求められます。当社のSSでも、一部の有能なスタッフは車を月に十数台販売しますが、他のスタッフに車販をやらせると、時間ばかり取られ、結局1台も売れません。
ところがレンタカーを売るとなると話は違ってきます。
貸出待機中のレンタカー実車に値札をつけます。すると興味を持ったお客様が寄ってきます。そこでスタッフは接客しながら「レンタカーとして運用している車両なので、整備面も万全です」「レンタカーとして償却済みの車両なので、相場より安価に販売できます」「レンタカーですから、好きなだけ試乗できますよ」と伝えます。
お客様は、その車両を「買う」か「買わない」かを判断するだけです。そこに駆け引きなどありません。これなら商品知識のないアルバイトでも販売できますね。
この春、当社はたくさんの新人を採用しました。まずは研修を兼ね、各SSに配属しました。彼らはまずリスト獲りから始め、店頭での車検販売、入庫促進コールなど、車検販売を集中的に担当してきました。なかには月間100件もの車検を獲得する猛者が現れました。車検販売に関しては、彼らは「達人」の域に達しつつあると思います。
次のステップとして自動車販売にチャレンジさせたいと思います。手始めにレンタカーの実車販売が、格好の練習台になるのではないか、そうすれば、秋冬需要に応じてレンタカーの台数もうまく減らせるのではないかと期待しています。
今更ながら知った
レンタカー業界の実態とは
レンタカーの話ついでに、泣き言をつづります。
リーマンショックで意気消沈したSS業界にとって、レンタカーという新商材は福音となりました。あまりに簡単に儲かるので、今やニコニコレンタカーだけでも1,000店以上が全国で営業しています。
ところが、市場規模はそれ以上に拡大しています。ニコニコレンタカーの予約ホームページのアクセス数は、ついに月間100万件を超えました(グラフ1)。
車両はまだ全国に9,000台しかありません。つまり車1台に対して毎月100人以上が「借りたい」と言っている状況です。店が増え車両が増えても、需要過多・供給不足の度合いは増すばかりです(表3)。
車両を増やせばいいかと言うと、そうもいきません。
当社直営の200坪のセルフSSに対し、70台のレンタカーを配備したことがあります。想像してみてください。土・日の朝ともなると20組ものお客様が次々にやってきては出発を順番に待っている状況を・・・。さすがにこれはやり過ぎました。SSでレンタカーをやろうとすると、やはり物理的な限界があります。
そこでSSと別に、比較的自由に車両を保有できる立地を探し「レンタカー専業店」を4カ所で試しています。
「グラフ2」は当社のレンタカー売上実績です。数年前はゼロだった事業が、今や月商は安定的に3,000万円、8月はほぼ6,000万円を稼ぐようになりました。そしてその7割以上を専業店が占めています。「車両を増やせば売り上げが増える」ことは明らかです。
と言うものの、手放しでは喜んではいられないのです。
SSでレンタカーをやっているうちは楽な戦いができたので、つい調子に乗って専業店をどんどん出店したわけですが、今思えば、何と無謀な世界に踏み込んでしまったかと後悔するほどです。
実は専業店は、既存のメジャーレンタカー業者との熾烈な戦いを覚悟しなければ生きていけない世界だったのです。
SS兼業の時は意識しなかった家賃、設備費、人件費が、専業店には重くのしかかります。4店舗で実に月間2,500万円もの固定費がかかっています。
これをカバーするには、「一般貸し」だけでは足りません。法人需要や鈑金代車、旅行代理店の紹介などを取り込む必要があり、既存レンタカー業界の牙城を崩さなければなりません(グラフ3)。
ところがそこには、資金力と人間力を背景とした、緊密な互恵関係が立ちはだかっていたのです。例えば、レンタカー会社、カーディーラー、保険会社は「3社連合体」ととらえる必要があります。
①レンタカー会社はカーディーラーから新車を大量購入する。
②カーディーラーは保険会社と組み、その車に保険を掛ける。
③保険会社は保険扱いの鈑金修理の代車を、レンタカー会社に依頼する。
何を今さらと思われるかもしれませんが、うかつにも専業レンタカーに参入して初めて知りました。
そういうわけで、4店の専業店で500万円以上の赤字が毎月垂れ流されてきました。
でも、やりかけて安易に撤退するのも悔しいので、優秀な人材を投入しつつ、もがき苦しんでいます。この5月になってやっと損益分岐点を超え始めましたが、なお予断を許さない状況です。
SSでレンタカーの味をしめた方が、ときどき「専業でもやってみたい」と言われます。しかし、よほど営業力に長けたマネージャーがいない限り安易に参入してはいけないと、私は本気で助言します。