セルフSSでも
昔と変わらないリスト獲得率
当社は今年7月から新しい事業年度を迎えました。これに当たり、中期事業計画を立てました。SS部門はガソリンロ銭「L1円50銭」を前提に置いています。
安売りするつもりは毛頭ありません。しかし、周辺SSの小売り価格に合わせると実勢粗利がすでにこのレベルにあり、今後も楽観できません。
先日発表された資源エネルギー庁の予測によると、2030年までにガソリン需要は6割減少するといいます。あと18年の間に年率3~4%ずつ減少するわけです。ということは、残存需要を巡り、ますます熾烈な価格競争が繰り広げられると考えられます。
当社SSでも現状、総租利に占める燃料油の割合は、もはや5%以下に過ぎません。燃料油のマイナス分を油外でカバーしなければならない時代は目の前です。
さて前回も触れましたが、今年6月から寒川SS(セルフ給油/神奈川県)が当社の戦列に新たに加わり、SSの陣容はセルフ4カ所、フルサービス1カ所となりました。
これを機に顧客管理のあり方を見直し、昔懐かしい「リスト獲り」を実施しています。試しに1ヵ月間やってみたところ、8割以上のお客様が住所・氏名を記入してくれました(グラフ1)。お客様の反応は20年前と何ら変わっていません。
私か本誌に初めて原稿を書いたのは1988年2月です。
当時はSS運営をしていませんでしたが、SS業界であまり重要視されていなかったフリー客について、会員化すれば、固定化する「幸せの青い鳥」だと説きました。
リスト獲りの目的は、昔は「ガソリン増販」でした。L当たり20円もの粗利がありましたのでダイレクトメール(DM)や景品に費用を投入でき、また、投入しただけ確実に増販したものです。今は「油外増販」にリストを活用します。顧客数と来店機会を増やすことにより、油外商品を販売するための接点を数多くつくります。
ただ20年前と異なるのは、今や顧客の財布の中には様々なお店で発行されたカードがぎっしり詰まっていることです。役に立たないカードは選別され、ほどなく捨てられてしまいます。そうならないようにSSはサービスと商品に磨きをかけなければなりません。
昔と異なることとしてもう1つ、昨今は、決済方法が多様化したことが挙げられます。現金やクレジットカードだけでなく、プリカ、電子マネー、おサイフケータイ等々、同じお客様がTPO(時間・場所・場合)により使い分けをしています。
昔は「現金会員カード」や、「クレジットカード」を差し出してもらって顧客を識別しましたが、現在は「車番」で顧客を 識別できます。IT技術がこれを可能にしました。
コスト削減と油外収益は相反する
顧客の購買行動を追跡する考え方として「RFM分析」があります。
R=リーセンシー(最新購買日)
F=フリークエンシー(購買頻度)
M=マネタリー(購買金額)
すなわち、顧客一人ひとりのお店に対する貢献度を測る分析項目です。これを追求することにより、油外購入優良客の固定化や、販売促進、接客のピンポイント化を目指そうと思います。
リスト獲りした顧客に対してまずはDMを3回発信し、その後、再来店、反復来店したお客様を「固定客」と考えます。
電子メールを用いると低コストですが、今や大半が着信と同時に削除されてしまうため、以前ほど効果が上がらなくなりま した。
DMはコスト負担が増すため、ほとんどのSSはやらなくなりました。しかし、お客様の目に確実に触れる、アナログな 販売促進策です。
(表1)は当社が運営する所沢SSの6月の実績です(前年同月比較)。
この店舗がある商圏は、元売販社の直営SSやスーパーディーラーの有力店が勢ぞろいするガソリン激戦区です。ガソリン 租利はL当たり80銭。昨年はマイナスでした。
営業利益を見ると今年は少しだけ回復しました。人件費効率を見ると、投入した人件費の2.5倍の油外収益を稼いでいます。
問題はそのベースとなる人件費です。5月に整備士が転職しました。その分の人件費が下がり、数字上、人件費効率は改善しました。しかし、欠けたスタッフのシワ寄せが及びます。車検作業に忙殺されたため、他の油外販売は軒並み減少しました。
ガソリン中心の店と油外中心の店では、コスト感覚に相反する部分があると思います。コスト削減は一時的に利益を出し、指標(損益分岐点)を改善する効果があります。しかし、油外販売に対してはボディーブローのごとくダメージを与えかねません。
油外は商品の信頼性にかかっていますから、そこには相応のコスト負担が求められます。
カーディーラーが発信する分厚いDMや、車検専門チェーン店が撒いているチラシなどに対抗し得る、販促と人を準備し、投入しなければ勝てません。
中期計画において油外収益の柱となるのは、やはり「車検」です。固定客の半数は車検を購入してくれます。ですから、固定客数を増やすこと、そして、固定客にしっかり告知するために「リスト」を活用します。
そのうえで、SS業態にしかない「顧客との接点の多さ」を生かし、接客・商談をしっかり行えば、SSは必ず勝ち残れると思います。
移動手段に対する
コストの支出は多様化している
以前「週刊ポスト」の記事で、自動車にかかるコストを算出していました。
これによると、200万円の車を購入した場合、ローン、駐車場、車検、保険、税金、ガソリン、整備などが掛かり、マイカーを維持するためだけに年間80万円以上が費やされています(表2)。
違和感のない数字ですね。さらに「住宅とは異なり6年ほどで買い替えていくものなので、マイカーにかかる費用は生涯で3,000万円を超える」そうです。ただし、「車に3,000万円ものお金を掛けても、住宅と異なり資産価値はほとんどゼロ」「マイカーを持たず、タクシーやレンタカーを使う方が経済的」と述べていました。
マイカーに掛かる費用、年間80万円があれば「近距離ならタクシーに年間1,100回以上乗れる」「3㎞ほどの距離をマイカー通勤しているなら、年間270回乗ってもお釣りがくる」「レンタカーなら年間100日程度借りられる」と試算していました。
つまり、週休2日のサラリーマン家庭がタクシーとレンタカーをうまく組み合わせれば、通勤から買い物、娯楽、送り迎えまで賄えてしまうわけです。こういう合理的な選択を生活者は考え始めています。
SSもまた、こうした生活者の価値観の変化に対応する必要があります。
①マイカーのお客様には、日常の面倒を見ます。
②車をお持ちでなければ、安価に販売します。
③または、必要なときだけ車を貸します。
④車が不要になったら、買い取ります。
⑤燃料もあります。
こういうスタンスを取ることが必要です。
車を持たない生活者でも「移動手段」を求めるニーズがなくなることはありません。
しかし、移動手段に対するコストの支出が多様化していますから、マイカー保有者だけを対象としていれば、そのマーケットは縮小するばかりです。
車を持たなくなった消費者の、その受け皿をも用意するところにSSの活路が開けると考えます。