「一粒で二度おいしい」を
体感できる自動車販売台数とは
当社直営店の月間利益は、14ヵ月連続ギネス記録を更新しています。
表1を見てください。
9月は前年同月に比べ、経費が450万円かさみましたが、粗利が1,200万円増加しました。
このため営業利益は750万円増えて、前年同月比3倍です。
伸長著しいのは車販です。
前年比650万円増の2,250万円。車検収益に肩を並べ、間もなく追い抜くでしょう。
「ガソリンスタンドで車を売る」ことは、もはや珍しいことではありません。生産性は高く、販売後も固定客になってくれる一石二鳥の商材です。
問題は、いかにたくさん売るかです。当社はこの10年間、「月間販売20台」にこだわり試行錯誤してきました。車の平均的な買い替えサイクルは8年と言われます。月に20台、年間240台を販売し続ければ、8年間で累計約2,000台。つまりSS利用客の半数が自店の車販客となります。
これによる車販収益は年間5,000万円ほどですが、車販客のアフターマーケットが車1台当たり年間10万円とすると、それだけで年間2億円の油外収益を囲い込むことができます。
このビジョンを実現するため、当社は「放浪」の旅に出ました。
AAはスタッフの遊び場と化した・・・
最初に車販を手がけたのは2004年です。
ご多分に漏れず、当社も中古車の無在庫販売を始めました。在庫負担がかからない分、安く販売できます。「勝ち目はある」と取り組んできました。
確かに、お客様は興味津々で話を聞いてくれます。AA(オートオークション)の出品票を真剣に見てくれます。SSスタッフも、お客様と楽しい時間を過ごします。あっという間に2時間、3時間が経過します。
オークションはまるでゲームです。お客様のご予算内で落札できなければ、仕切り直し。あらためてお客様に車を選んでもらい、再挑戦するという具合です。その投入時間にくらべ、成約に至るお客様は何と少ないことか。
パソコンに向かってAAの出品情報を絶えずチェックすることが、SSスタッフの仕事になってしまいました。半ば遊び感覚。フィールドでの接客や販売行動はそっちのけ。
あれよあれよと油外収益は下がります。当時は2カ所のフルサービス店を運営していましたが、車販収益が年間1,300万円増えたものの、他の油外収益が8,700万円も減ってしまいました(グラフ1)。
ああ、何という「オモチャ」をSSに与えてしまったことか。私はSSに対し「車販禁止令」を出しました。
そして適性のありそうなスタッフをSSから引き抜き、本社に車販専任チームを作りました。
SSの仕事は見込み客を見つけるだけ。見つけたら車販チームに引き継ぎます。車販チームはすぐさまお客様に連絡し、アポイントを取り、それぞれのSSに出動し商談します。
「車販」を取り上げられたSSは油外販売に勤しむようになり、油外収益は回復しました。しかし車販台数は1SS当たりせいぜい月間5台。以後10年間やってきましたが一向に伸びません。
「現車」がないので、口先だけで売ります。これが非常に難しい。
車に対する深い知見があり、巧みな話術、聞き上手、そしてお客様との信頼関係が不可欠ですが、1人で月間20台を販売できる能力を持つスタッフは限られます。残念ながら当社は10年かけて、そのような人材を育て各SSに配置することはできませんでした。
車販を伸ばす打開策
吉と出るか凶とでるか
業を煮やした私は2014年、2つの決断をしました。
①中古車の展示販売をやってみよう
コンサルタントに相談すると「最低でも50台は在庫を用意してください」と教えられました。
200坪以上のスペースが必要です。手を尽くして探したところ、当社平塚SSの隣の農地を借りることができました。行政手続きなどを経て、2015年2月に完成。在庫仕入れも含めると、ざっと5,000万円かかりました。
本社スタッフ1名と新規採用2名を配置。うち2名は車販経験がありません。でも、展示車は簡単に売れます。月間平均20台。在庫管理など新たな問題も出ていますが、まずまず期待通りに売れています。
②SSを「中古車買取ステーション」に転換してみよう
当社の茅ヶ崎SSは210坪の小規模な店で、2006年にセルフ化しました。油外販売が年々厳しくなり、2010年以降は赤字続き。脱却できる見通しが立ちません。
1.5km離れた場所に当社の車検工場があります。その2階に中古車買取の専門店を構えています。この店は2002年に開店し、以来、赤字知らずの好業績。前面道路に掲げた大看板が毎月コンスタントに200台以上を集客し、査定すると100台が買取成約します。しかし近年は、インターネットに押され、前面道路通行客の来店がめっきり減っていました。
そこで私は考えました。
❶茅ヶ崎SSを買取・車販店に仕立てよう。
❷その前面道路に大看板を設置する。給油客もあるので、来店数は申し分ない。
❸この店を買取スタッフに運営させよう。中古車を10年以上取り扱ってきた精鋭たちだから、
買取と抱き合わせで月間20台を無在庫販売することなど朝飯前に違いない。
これぞ妙案、起死回生の一策。日本初の「買取ステーション」の誕生だと有頂天になりました。さっそく両店長に話をつけ、組織を丸ごと移し、やってみました。
トリプル打撃で大失敗
まず初日に大コケしました。
前面道路の交差点の角にLED仕様の大看板を設置したのですが、条例違反と指摘され、1日で撤去する羽目になりました。
それでもメゲず、のぽり、懸垂幕、立て看板、壁面シートなどで店内隈なく買取店であることをアピールしました。そしてスタッフたちは手ぐすね引いて待ち構えました。
ところが、査定依頼のお客様が一向に現れません。
「査定してください」と依頼さえあれば一騎当千の彼らも、給油に来たお客様には驚くほど弱腰です。積極的に会話しようとする文化がありません。連日待ちぼうけでした。
もともとあった買取店の収益を捨てて、期待した「買取ステーション」での車販は空振り。SSが従来稼いでいた油外販売も落ち込み、赤字は膨らむ一方です。とうとう我慢できず、半年後に組織を元に戻しました。
SSスタッフはクロスセルの達人
この理由を図解すると図1のとおりです。
中古車買取店は、お店の外観やチラシなどの告知物で、「車を売却したい」と考えている人に訴求します。その目的を持った人だけが来店します。査定目的で来店したお客様に対しては、買取スタッフは最高のパフォーマンスを発揮します(図1-A)。
しかし、SSがどんなに着飾っても構造自体がSSですから、お客様はSSとしか認識してくれません。よって、給油目的の人しか来店しません。その中から油外販売や車の買い替えニーズを見つけ提案すればよいのですが、買取スタッフにとってそれは「離れワザ」だったのです(図1-B)。
つくづくSSスタッフの「底力」を思い知ります。
SSスタッフにとって、給袖のお客様が来店した時が勝負開始。オイル、タイヤ、車検、洗車など関連商品を販売するためにアプローチします。断られてもくじけません。
このように購入目的の商品に、関連商品を抱き合わせて販売することをマーケティング用語で「クロスセル」と呼びます。
何のことはありません。SSスタッフはクロスセルの達人なのです(図1-C)。
その達人を排除して買取スタッフにSSを任せてしまいました。私の浅はかな考えは、自爆行為に他なりません。
車販を妨げる2つの壁
さて、クロスセルの達人と言えども「車の販売」は相当ハードルが高いと思われます。
たとえば5万円のパソコンを買いに来た人に対し、10万円の上位機種をお勧めすることを「アップセル」と言いますが、残念ながらSSスタッフは、タイヤ、車検、鈑金くらいまではクロスセルできますが、そこから「車販」へのアップセルがなかなかできません。
そこには2つの壁が立ちはだかっています(図2)。
まず車の買い替えニーズを把握することです。車検ニーズはステッカーを見ればいい。タイヤは目視すればいい。オイルは点検したり前回の交換時期を確認すればいい。しかし、車の買い替え時期は、お客様に聞かなければ分かりません。
「第二の壁」はもっと高い。
お客様の信頼を得ることが大事です。そのためには、すべての車種に関する深い知識や経験が必要です。今やインターネットなどで情報武装したお客様も少なくありませんが、お客様より情報量の劣るスタッフを前に「この人から買おう」と思ってくれるでしょうか。
ただ、もしもこの2つの壁を乗り越えられれば、お客様は購入の「意思決定」をしてくれます。一度「意思決定」に至れば、「契約」まで事務的に進むのです。大事なことは購入の「意思決定」にあったのです。
壁をスルーする必殺技
意思決定の前に立ちはだかる2つの壁。私たちSSには、なかなか突破できません。ところがこれを「乗り越える」のではなくて「スルーする」方法がありました。
実は「個人向けオートリース」こそが、その魔法の方法だったのです。何だかテレビ通販番組みたいな展開になってきました。
やってみて分かったことですが、「個人向けオートリース」の商談では、車の性能、機能、競合車種との比較についてほとんど喋りません。
オートリースの仕組みを的確に説明するだけです。すると、お客様が「こんな車の利用方法があったんだ」と驚き共感してくれます。この方法なら、経験を問わず、誰もが実行可能、誰もが「意思決定」までお客様を誘導できます。
新車ですから車に対する信頼はメーカーが担保してくれます。手持ちの資金も要りません。共感したお客様の何割かは「すぐに乗りたい」と意思決定してくれます。意思決定の後、車種選び、グレード選び、オプション選びという手順に進みますが、契約に至るまで、至極事務的に進みます。
この10数年来、「1店当たり月間20台」を目指して放浪(悪あがき)してきた車販ビジネスですが、今、ようやく軸足が定まった感じがしています。