モーターショーには落胆
昨年末に開催された東京モーターショーは、来場者数も多く大盛況だったそうです。私も見てきました。地球環境に配慮した次世代型自動車や最先端技術の数々がふんだんに展示され、驚いたり感心したりしました。
「ハチロク」に並んでいる行列を見ると、日本もまだまだ捨てたものではないと感じました。
とはいうものの、かつて自動車業界は、われわれに元気を与え、日本経済を牽引する一翼を担ってきました。そのモータリゼーション華やかりし時代を体験した私としては、正直なところ物足りませんでした。歳をとったからでしょう。どこかしら役所の展示会のようで、明るい未来を夢見ることができる「ショー」では残念ながらありませんでした。
確かに「スマートライフ」は重要なコンセプトです。省エネルギーも大切です。でも、車にはやはりパフォーマンスとか、格好良さを求めてしまいます。
今時こんなことを言うと、「国賊扱い」されることになるのでしょうか。
その面白くないプラグインハイブリッド車(PHV)が、いよいよ本格的に市場投入されます。車両本体価格は、「320万円から」となっていますが、国や自治体の補助金や減税、あるいは免税により随分安くなり、購入しやすい価格になるようです。
電気自動車(EV)も安くなりました。レンタカー用として使えば面白いかと思い、当社は2009年12月に「i-MiEV」を購入しました。その際、補助金を差し引くと車両1台220万円でした。
それが今や100万円を切りました。これならセカンドカーとして利用する人もいるでしょう。技術革新がさらに進み、値頃感が出ると市場は爆発的に拡大するものです。そして、その時代は遠からずやってくると思うと背筋が凍る思いがします。
エコカー(低公害車)だけではありません。レンタカー用のカーナビとして、安価で、画面サイズが大きく性能が良いものを探していたら、7インチ仕様のモデルを2万円程度で買えることが分かりました。
GPS(全地球測位システム)で標高表示も行う優れモノです。ついこの間までは、画面サイズが小さく、性能も機能も低いものが数十万円でした。韓国やインドの台頭があり、自動車および、その周辺市場は、性能面、価格面での競争の度合いが増しています。もっとも、私たちSS業界のガソリン販売競争も悲惨なものですが・・・。
こうした複雑な思いを抱きつつ、今年も油外の世界を放浪したいと思います。
自動車業界は肉食系ビジネス
改正車両法(平成7年)の施行後、SSが油外商品として車検により力を込めて取り組むようになってから、今年で17年目になります。以来、中古車の販売・レンタル、カーリースなどとSS業界は環境変化に対応すべく事業領域を拡大してきました。
かつては自動車の軽整備、補修、補充サービスがSSの油外商品の中心でしたが、今やSSは自動車そのものとの関わりが強くなっています。
と同時に、SS同士の競争に止まらず、カーディーラー、中古車販売店、カーショップ、整備工場といった専門業者との競争が激しさを増しています。なかにはテレビCMを大量に流し、高い知名度を武器に商売する会社(上場企業)もあります。ことに知名度では、新参者のSSは不利かも分かりません。
しかし、SSの利点もあります。自動車業界において、この利点は必ず生かせると信じています。
実際、これまで私がSSを経営してきて率直に思うのは、大多数のお客様にとって、SSほど親しみやすく馴染みゃすい業態はないということです。
自動車関連ビジネスを分類すると次の4つになります。
自動車を①売る、②買う、③借りる、④修理する。
競合相手は、この4つのうちどれかを専門化しており、車の在庫台数、整備工場の規模、関連商品の品揃え、整備士や専門スタッフの数などを比べるとSSは見劣りします。SSはどちらかというと、この4つの分野を幅広く取り扱います。そして、他に比べ「アクセスのよさ」「敷居の低さ」では、SSに大きなアドバンテージがあります。
地域社会による「企業の信頼性が高い」のも外せない点ですね。接客態度については、昔からうるさく言われ、スタッフ教育がなされてきました。
お客様がSSのスタッフに対して抱く印象は、「話しやすい」「人がいい」「嘘を言わない」「車に愛情を持っている」といったものです。車に疎い主婦や新米ドライバーにとって、給油のついでに気安く聞けるのがSSの良いところではないでしょうか。
「給油のついでに—」というのが、SSの弱みでありながら一方では最大の利点になっています。(図1)
カーディーラーや整備工場の店舗はまだまだ閉鎖的です。スタッフは、購買頻度の低い高額商品の販売チャンスをものにしようと常にギラギラしています。
例えば、車の買取専用のwebサイトがあります。試しに、愛車の情報と自身の住所・電話番号などを入力して送信してみました。すると何と、30分経たずに6件の買取業者から電話が入りました。彼らは、常に相場情報を頭に入れ、チャンスがあれば猟犬のように飛びつきます。このように生き馬の目を抜く肉食ビジネスなのです。
SSはこんなにガツガツしていませんね。草食系です。だから、お客様が安心して気軽に近寄ってくれるのです。SSでイベントを実施すると例えば、4日間で3~4千台のお客様が平気で集まります。しかし、カーディーラーや整備工場が同じ予算を使っても、車500台くらいのお客様しか集客できません。SSが天から授かった大きなアドバンテージが、ここにあるのです。
草食系SSの活路は「廃車」
車の売買について考えます。
このビジネスの基本は、車を「安く買って高く売る」ことです。その機会を逃すまいと肉食系営業マンが絶え間なくアンテナを張っているわけです。
一方で、お客様も「少しでも高く売りたい」「少しでも安く買いたい」と考え、熱心にネットや情報誌で相場を調べます。このような世界の中でまともに戦うのは大変です。果敢にチャレンジし成果を挙げているSSもありますが、まだ少数派です。
ところが、ちょっと視点をずらすと、草食系SSが有利に戦える場所があります。それが「廃車買取」ビジネスです。
自動車ユーザーは、車が不要になると税金など維持コストの負担がかかるので廃車にします。一般的に業者に車を引き取ってもらう際、手数料がかかるものとユーザーは認識しています。
しかし、廃車で引き取った車はスクラップ業者に買い取ってもらうので利益が出ます。ですから、お客様に買取料金を支払ったとしても、採算がとれる場合があるのです。買い取った廃車の中には、まだ十分に走る車があります。「廃車にするにはもったいない」という思いから、当社の中古車レンタカービジネスが始まったという経緯があります。
それはさておき、「廃車買い取ります」とSS店頭で告知すると、毎月数台の中古車が必ずSSに舞い込んできます。これが「敷居の低い」「開放的な」SSの強みですね。不特定多数のまとまった数の利用客があり、目立つ場所に立地し、顧客をだますことなく、ガツガツしてもいない。
お客様の方から、気軽に相談してもらえるのがSSです。
ここ最近、当社のSSで引き取った廃車を(表1)にまとめました。スクラップ業者に販売した車を平均すると、車1台当り6,000円で仕入れ、スクラップ業者に3万円で売ったことになります。
なかにはオークションに出品できる、市場価値のある車もあります。こうした車は、車1台当たり2万5,000円で仕入れていますが、売ると19万円になります。
ほかにも、レンタカーやリースカーに転用したものがあり、仕入れ価格の何十倍も稼ぐようになります。このようにSSを「廃車の持ち込み場所」とするだけで、肉食系と競争しなくても利益を生み出すことができます。
短期利用ニーズを捉えた格安リース
中古車のレンタルやリースをするビジネスも、肉食系事業者が手を付けておらず競争のほとんどない領域です。既存業者は、新車を前提としたビジネスモデルしか提供していません。
当社のSSでは、走行距離が10万kmを超えたレンタカーで、まだ十分に走れる車をリースカーとして転用しています。レンタカーとして償却が完了した車両、あるいは「廃車」となり安価で仕入れた車両ですから、これを求める顧客にも格安で賃貸することができます。
専用ホームベージを立ち上げ、レンタカーのページにリンクを張っています。アクセス数は多く、引き合いがありながら玉(車)が不足したために、やむなくリンクを外したこともありました。中古車を「低価格で利用する」という新たな選択肢が、市場に受け入れられています。
短期賃貸のレンタカーについては、本連載でも再三再四述べてきましたので、ここでは長期賃貸のリースの利用ニーズについて、当社のビジネス実験の状況を説明します。
リース契約する顧客の構成は、法人が6割、個人が4割です(グラフ1)。
法人はコストダウンが目的です。厳しい経営環境を凌ぐためには、「所有」せずに「借りる」のが安上がりです。業種によっては、3カ月間とか6カ月間だけの期間業務のために、一時的に増車する必要があるケースもあります。
また、定期巡回とか営業用の車両で「ちゃんと走ればいい」と見栄えを気にしないケースも多いようです。
個人のリースカーの利用目的は、(グラフ2)に示しました。まだサンプル数が少ないですが、意外に多いのは、新車が納車されるまでの”つなぎ”です。震災やタイの洪水の影響もあり、「納車まで半年待ち」というのも当たり前の状況ですから、顧客からは「ありがたい」と言っていただいています。
また、自営の方には最適なコストセービングだと言えるでしょう。海外赴任が決まって車を処分し、出発までの問、リースカーを利用する方もいます。
自動車の低価格賃貸が、法人・個人の潜在ニーズを引き出しています。草食系SSにも十分戦える事業領域だと感じます。