SS全般

油外放浪記第56回「マネジメントの弱いSSの戦略は「浅く広く」攻める」

車検ホームページ冷やかし客の正体は?

当社直営5ヵ所のSSで、今年1~3月にかけて5,000件以上の車検予約を獲得したこと、加えて、スタッフによる紹介作戦で1,000件以上の車検予約を獲得したことを、先月号で述べました。
その成果は早くも現れています(グラフ1)

計画を上回る実績に喜んでいますが、その一方でこんな「怪現象」も発生しました。車検をアピールするために、店頭スタッフだけでなく、チラシ、看板、ダイレクトメール(DM)、もちろんホームページも活用しています。
ホームページを見ていただいた方の中には、その画面上で「車検見積もりをする」というボタンをクリックしてくださるお客様もいます。これは非常にホットなお客様です。電話をすると8割が車検を申し込んでくれます。絶対数は少ないですが、ホームページは車検販売の有効な窓口となっています。

ところが4月、異変が起こりました。見積もりを依頼してくださったお客様に電話してもつながらないケースが激増したのです。電話に出てくれないのか、そもそも入力していただいた電話番号が「ウソ」なのか、よく分かりません。

ハタと思い当たりました。車検予約を一気に5,000件も獲得したというのは、同じ商圏のカーディーラーや整備工場の車検客を、ごっそり奪い取ったことを意味します。
例えば、当社の仲町台SSと茅ヶ崎SSは同じ商圏にありますが、この商圏の車両登録台数は約10万台です。つまり1ヵ月当たり約3,000台の車検需要があります。3月は車検の需要期なので、おそらく4,000台以上が車検を実施したでしょう。このうち、当社は474台の車検を実施しました。全体の10%以上のシェアを獲得したことになります。

ということは、同業者を相当刺激したに違いありません。彼らは複数の得意客が「次回はガソリンスタンドで車検をやることになったから」と聞いてびっくりし、当社車検のホームーページにアクセスしたのでしょう。情報収集のため、試しにクリックしてみる。そんな「冷やかし客」が一時的に増えたため、こちらから電話しても出なかったのではないかと想像しています。
果たして、同業者たちは次にどんな反撃に出るか、身構えているところです。

「損益分岐油外収益」という考え方

昨年夏に運営継承した寒川SSの経営が、なかなか安定しません。3月は車検収益が伸びて黒字でしたが、翌4月は赤字に逆戻りです。 
当SSの月間経費は620万円です。燃料油収益は今のご時世、3円/Lと見て100万円としています。ですから、油外で520万円を稼がなければ赤字になります。

SS業界では「燃料指数」とか「V指数」と言いますが、これは「損益分岐燃料油口銭」という意味です。つまり燃料油べースの経営指数ですね。
これを逆転し、燃料油と経費を固定化し、油外でいくら必要なのかを考える、いわば「損益分岐油外収益」という見方をしています。「燃料指数が良くても経営は赤字」という不可思議な経験を積むと、こういった考え方をする方が分かりやすいのです。

つまり、寒川SSの赤字とは「必要な油外が得られなかった」だけのことです。
寒川SSから直線距離で5km離れたところに、当社直営の平塚SSがあります。どちらも神奈川県内の郊外立地ですが、平塚SSは利益貢献度の高い店舗です。

立地条件は寒川SSの方が勝ります。
生活幹線道路沿線で通行量も多く、近くに町役場もあり、小さな町の中心部に位置します。一方で、平塚SSは、周りは田んぼばかり、農道に毛の生えたようなのどかな沿道に位置します。

設備も寒川SSの方が勝ります。
敷地面積は650坪、同時給油8台、ピット2基の堂々たる認証工場です。かたや平塚SSは半分の370坪、同時給油6台、ピット1基の、よくある普通のSSです。

にもかかわらず、3月の油外実績を見ると、平塚SSが170万円多く稼いでいます。
表1を見てください。

洗車は設備力に勝る寒川SSに軍配が上がりました。車検も昨年来、集中的に強化してきた寒川SSの勝ち。
ところが他の油外商品は平塚SSが「ケタ違い」に勝っています。車検の需要期が過ぎても平塚SSが安定的に黒字なのは、このためです。

寒川SSに平塚SSの真似はできない

理由はマネジメント力の差です。
寒川SSの店長は、整備士から抜擢した素人店長です。ですから、重点商品や販売促進、オペレーションなどを本社主導で意思決定し指導してきました。
すなわち、「車検一点突破作戦」です。地域ナンバーワンの車検店になろうと、マーケティング技術を駆使し、浅く広く車検客の獲得に努めています。

対する平塚SSは、車の販売にも習熟したベテラン店長が担当しています。彼は少ない顧客をどんどん深堀りするという、寒川SSとは真逆の戦略を採ります。
スタッフを縦横無尽に動かし、車を買っていただいたり、車検をしてくださった顧客に対し、定期的にタイヤの空気圧点検サービスを実施するなど、きめ細かいフォローを通じて、カーケアニーズを丁寧に拾い上げています。

SS経営者なら誰もが追い求める理想の姿を、平塚SSは目指しています。当社内には「平塚の方法を寒川も見習うべき」という声もあります。
しかし、ハイジャンプ競技で、いきなり2mの高さから挑戦させても、ほとんどの選手が脱落してしまうでしょう。同じように平塚店長の「技」を見習えと 言っても、9割の人は真似できません。
細かく段階を刻み、一つひとつクリアし、いつか高いレベルのマネジメントができるようになることを期待しています。

尤も経営者としては、いつまでも赤字続きは我慢できません。寒川SSには、より一層の車検のシェア獲得に頑張ってもらいます。そして第2段階として、車検後の定期フォローを行い、車検客との信頼関係を築いたり、 車販の強化を図ろうとしています。

車検の販促コスト、費用対効果は?

「ザイアンスの法則」という心理学の理論があります。 
人は、よく会う人ほど好きになる。よく行く店ほど好印象をもつ。同じように車検も、接触頻度が高いほど「よい車検」だと思ってしまうのです。 
そういうわけで、今年は特にSS商圏に対して様々な形で情報発信してきました。これを受けて、お客様はどんな情報に触れ、当店で車検をやろうと意思決定したのか?

前回も述べましたが、4月までのアンケートの集計結果がまとまりましたので(表2)に示します。アンケートの回答数と車検入庫台数をもとに、実際の広告認知数を(C)に示しました。

リピーターを除くと、やはり「ダイレクトメール(DM)」「ホームページ」「店頭看板・POP」の効果がひときわ高いですね。車検はマネジメント力の弱いSSでも獲得できる、数少ない油外商品の一つです。

DMはまだ5SS合計で月間1,500通ほど出しているだけですが、2~4月の車検実施客1,747人のうち750人(43%)が「見た」と回答しています。リスト獲りを継続し発信数を増やせば、比例して車検台数も増加するに違いありません。

「ホームページ」は膨大な情報を掲載できるのが特徴です。ホームページからダイレクトに注文していただける件数は少ないですが、意思決定に有効な媒体であることは間違いありません。今や誰しもスマホで簡単にアクセスできる時代です。

「店頭看板・POP」は給油来店のたびに、ジワジワと効いてきます。重点商品を絞って告知すること、差別化するポイントをしっかりアピールすることが重要です。

いずれも販促コストのかかる手法です。お客様が複数の情報に触れた結果として、車検を注文してくださったわけですが、気になるのは費用対効果です。
そこで、構成比別に車検台数を割り振り、車検1台を獲得するために要したコスト(CPO:コスト・パー・オーダー)を算出してみたところ、車1台当たり7千円になりました。粗利は車1台当たり約4万円ですから、許容範囲でしょう。

告知媒体別に見ると、「ポスティング」と「折り込みチラシ」は、1万円以上かかっています。「店頭おすすめ」も販促費はゼロですが、要した人件費や募集・ 採用・訓練費を考えると、相当かかっているのではないかと思います。
「ポスティング」は残念ながら、委託した業者が期待外れでした。
「折り込みチラシ」は最近、急速に費用対効果が下がっているようです。日本新聞協会によると、1世帯当たりの新聞購読数は、2000年は1.13部でしたが、2012年には0.88部とのこと。この12年間で25%減少しています。

ただし、費用対効果が低いからといって、当社は当面の間、止めるつもりはありません。大事なのは「あの手この手」で消費者との接触頻度を増やすことだからです。
そして、最後に意思決定してもらうために店頭で意向確認を徹底することも欠かせません。 これはSSだけに与えられた最大の優位性ですから。

当社は今、DMの発信件数を増やすこと、ホームページのアクセス件数を増やすこと、発信する情報の質を高めること、さらには車検の商品力そのものにもっと磨きをかけることに注力しています。

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