SS車検は”高齢化”
3月は車検の書き入れ時。車検を主食にしている当社SSでも、大わらわとなります。
巷では「車検の2014年問題」といって、今年は車検需要が激減すると騒がれています。
3年前は東日本大震災により何十万台もの車が廃車となり、また、タイの大水害により車の生産がストップ。5年前には、リーマンショックが自動車販売を直撃し、スクラップ・インセンテイブによって数百万台が処分されたと言います。
したがって今年は、車検マーケットが大きく縮小し、激しい争奪戦が繰り広げられるというわけです。
しかし、1月実績を見る限り当社SSは前年比25%増の515台(5SS合計)で推移しています。3月もすでに600台近い車検予約を獲得しており、2月の活動いかんでは1,000も夢ではありません。SSは顧客接点が多いので、2014年問題はあまり関係がないようです。
とは言っても、新しい車はあまりSSで車検をしてくれなくなりました。グラフ1は、当社のSSおよび取引していただいているSSで受注した車検車両が、何回目の車検なのかを示したものです。SS車検が急速に高齢化(低年式化)しています。
5回目以上の車検車両は、8年前は4台に1台しかありませんでしたが、今は4割を超えています。
低年式車の車検はありがたいですね。整備がたくさん売れます。顧客にとっても、ふた言目には「買い替え」をお勧めするディーラーより、今の車に乗り続けることを真剣に考えてくれるSSの方が、頼りがいがあると思います。
かく言う私も、愛車は平成7年型、走行距離29万kmの「ピンテージカー」に乗り続けています。先日9回目の車検を実施しました。ちゃんとメンテナンスさえしていれば、国産車はいつまでも走ってくれますね。今回も整備に10万円以上かかりましたが、SSは喜び、私も満足しています。
車検の強敵、続々登場
さて、当社SSの昨年1年間の車検実績が「表1」です。
前年比倍増の8,000台を目指しましたが届かず、2,300台増の6,652台となりました。
2013年の年初から、すべての来店客を対象に「次回の車検はぜひ当店で」と先行予約を獲り始めたことが、少なからず車検増加に寄与しました。これは選挙で言えば「組織票」のようなものです。
昨年1年間に獲得した先行予約のうち、昨年車検分は5,957件でした。今年分はすでに4,744件の先行予約が獲得できています。これがすべて入庫するわけではありませんが、この上に、今年獲得する先行予約が積み上がる予定です。
選挙と同じく「票読み」ができますね。今年こそ「8,000台超え」が果たせると期待しています。—などと喜んでいたら「禍福はあざなえる縄のごとし」、思わぬ事態に直面しました。強力な競合が出現したのです。
しかも当社が運営する5カ所のSSのうち、フラッグシップ店である「仲町台SS」と「茅ケ崎SS」は横浜市の港北ニュータウンという場所にあるのですが、その本丸の足元に、続々と車検専門店が出店しました。
まず「さくら車検」。
これは最近、関東・関西を中心に急速に伸びている車検チェーンです。お店は何とマンションの一室。インターネットで車検を受注し、アルバイトが自宅まで車を引き取りに行って近隣の整備工場が下請けするという、新しいビジネスモデルです。
確かにインターネットは車検販売の強力な窓口になりますし、店舗本体は究極のローコスト。したがって、提携工場に対していかに低料金で仕切らせるかにかかっていると考えられます。
あろうことか、過日、当社SSに「提携工場をやりませんか」とオファーをしてきました。
もちろんお断りしましたが、仕事の少ない整備工場にとっては「従業員を遊ばせておくよりはいい」と安く請け負うのかもしれません。
次に「車検の速太郎」の出現です。
近隣に小さなオートバックス店舗があったのですが、これが昨年閉店しました。やれやれ、もしかするとオイル交換やタイヤの需要のおこぼれにあずかれるかもしれない、と少し期待したのもつかの間、「車検の速太郎」の大看板が掲げられているではありませんか。びっくり仰天です。
この車検チェーンは、「早い」「安い」を売りにした「立ち会い車検」のフランチャイズ展開で、1店舗当たり月間300~500台の車検を実施すると聞きます。1月1日付でオープンし、まだ指定工場資格を申請中のようです。今はおとなしくしていますが、非常に脅威です。
そしてさらに「GTNET車検センター」なる店が出現しました。当社と競合していたSSが数年前に閉鎖し、長らくそのままになっていたのですが、突如として車検専門ショップに改装されたのです。この3月にオープン予定ということで、この店の手口はまだよく分かりません。
インターネットで検索すると、この「GTNET 車検センター」も立ち会い車検の全国チェーンのようです。改装に何千万円も新規投資したからには、相当な策を繰り出すに違いありません。
もとより「コバック車検」も同じ商圏にあります。突然、競合の乱立する局面に彼らとて黙ってはいないでしょう。
当社も指をくわえて見ているわけにはいきません。大立ち回りをしなければ勝てないと覚悟を決めました。
敵を知り己を知れば百戦危うからず
まずは彼我の「強味」と「弱味」を整理してみました(表2)。
①カーディーラー
カーディーラーは、車を販売した顧客(既納客)の囲い込みに全エネルギーを注ぎます。
営業マンは何が何でも自分の顧客を守ろうとします。彼らは 「防衛率」と称し、自分の顧客が他店に奪われるのを恥ずべきことと捉えます。「防衛率」は 会社の査定にも影響しますから、なり振り構わず「防衛」します。
せっかく当社が車検予約を獲ったにもかかわず、悔しいかな、 カーディーラーに奪い返されることがしばしばあります。破格の価格とサービスてんこ盛りで「後出しじゃんけん」をしてきます。すごい執念ですね。
ただ、彼らが「防衛」するのは新車を売ったお客様、だけです。車検を「餌」に新規客を獲ろうという考えはありません。
②コバック
コバックに限らず、整備工場の多くは、ほとんどリピーターで成り立っています。ただし、新規客を常に取り込まなければ 衰退するばかりなので、コバックのようにブランド力の強い車検専門チェーンが出現しました。
新規獲得の源は折り込みチラシとインターネットです。ブランド認知のため「野立て看板」もよくやっています。
「チラシは店がお客様一人ひとりに宛てたラブレターである」 とは高名なコンサルタントの言葉ですが、コバックのチラシを見ると、車検に対する熱い思いがふつふつと感じられます。当社も随分勉強させてもらいました。
ホームページも最近はかなり垢抜けた印象です。インターネット広告にも相当の販促費を投入しています。コバックは積極的に新規車検を獲ろうとしますから、当社SSとは昔からガチンコ勝負をしてきました。コバックに負けないメッセージ性の強いチラシを当社も作ります。するとコバックも真似てきます。顧客接点を生かした車検販売は圧倒的に当社に分がありますが、リピート率ではコバックの圧勝です。
③さくら車検
「自宅に居ながらにして車検が完了する」という利便性ナンバーワンなのが、さくら車検です。店舗や人件費など固定費は低いですが、工場は外注ですからそれほど料金を安くはできないようです。「煩わしくなくていい」というニッチなお客様がターゲットだと思います。
当社SSでも、試しに「宅配車検」をメニューに加えてみました。でも、思ったほど需要はないですね。時々しかリクエストがないので、却って「人繰り」が狂い、店長が翻弄されました。まだ市場が小さすぎるのかもしれません。二兎を追おうとすると、SS運営のバランスが崩れるリスクがあるため、しばらくは静観です。
④車検の速太郎
前述・オートバックス店が撤退した後に入った「車検の速太郎」ですが、この運営会社は、従来から地元で「新古車」を大量販売する元気一杯の会社です。以前から毎週土曜日には、この会社の「新古車」と鈑金の「カーコン」をアピールするチラシが必ず折り込まれてきました。
「新古車ならあの店」という感じで地域でのイメージも定着しつつあります。そんな会社が 「車検の速太郎」という強力な商品をラインナップし、新しくて大きな店舗に進出したわけです。大手コンサルタント会社のモデル企業にもなっているそうで、当社に引けを取らないマーケティング手法を繰り出すことでしょう。
加えて「車検の速太郎」は強力な商品力を背景とした典型的な薄利多売方式です。目を惹くチラシを大量に商圏にバラ撒き続けるに違いありません。当社との正面衝突は避けられないでしょう。
SSには「伝家の宝刀」がある
わが国は自由競争ですから「一人勝ち」はあり得ません。
水が低きに流れるように、ビジネスチャンスがあれば、必ず競争が生じます。ガソリンも然り、車検も然り。
われわれSSが車検ビジネスに新規参入したのが19年前のこと。あれから市場環境も業界地図も随分変わりました。車が売れなくなったカーディーラーは、今やアフターマーケットの強化が死活問題です。規制に守られていた整備工場も自由化の波にさらされ、競争原理に目覚めました。
今や車検市場は、「血の海」(レッド・オーシャン)です。
打つ手打つ手に対抗されますし、また、われわれも対抗していかなければ勝てません。チラシにはチラシを、WebにはWebを、ミラーリングにはミラーリングを—というようにして。
まずは同じ土俵上で互角に戦わなければなりません。そのうえで、土俵の外からも攻撃すれば勝てるでしょう。
太平洋戦争で日本海軍が企てた「アウトレンジ戦法」は、相手が手を出せない領域から弾を撃つものです。
われわれSSは「ガソリン」を強力な武器として持っています。ガソリンがあるから、高い来店頻度を確保でき、顧客接点が生まれます。またガソリンは販促インセンティブとしても魅力的です。いよいよ、この「伝家の宝刀」を抜き、フル活用する時が来たのかもしれません。
ところで「表2」を見ると、当社SSに「◎」が多いことが分かります。競合に負けまいと躍起になった結果です。
ガソリンスタンドという大きな設備投資に見合う収益をガソリンで得られない現状にあって、油外をポテンシャル以上に稼がなければ生きていけないという、半ば脅迫観念から車検販売に命を懸けています。
競合はそれほど「◎」が多くありません。つまり、ムダ弾が少ないわけです。逆に当社SSは全方位に弾を撃ちまくる高コスト構造といえます。1SS当たり月間平均1,000万円以上の油外粗利が得られるまでになりましたが、営業利益はさほど改善していないことを先月号で述べました。
もうひとつ、競合が強くて当社SSが弱いのが「リピート促進活動」です。これも先月号で述べたとおり、新規獲得に偏重したことが高コスト構造の要因となっています。顧客満足を高めるためにはスタッフの接客力・人間力の育成が急務です。
というわけで、しばらくは全方位型新規獲得活動をやめることはできないでしょう。