油外放浪記

油外放浪記第88回「「やってみて分かった」中古車展示販売のむずかしさ」

なめたらアカン!お正月

今から数十年前、 私は大学生で横浜に下宿していました。
どんな事情があったか忘れましたが、正月に帰省しなかった年がありました。
一人下宿で年を越したわけですが、お腹が空いたので外出すると青ざめました。八百屋も、肉屋も、スーパーも、定食屋も、喫茶店も・・・どこも開いていません。
当時はコンビニなんてありません。まったく世の中の仕組みを知らない青二才。年末にみんなが買い出ししているのを横目で見ながら、その理由を改めて思い知りました。仕方なく下宿に戻り、部屋を漁ると一束のスパゲティが見つかりました。ソースはありません。2日間に分け、塩をかけて食べました。
とにかくひもじい正月だったと記憶しています 。

中古車「初売り」のてん末

時は流れて、時代は変わりました。今や元旦から「売り出し」をやるのは当たり前。年末に買い出しをしなくてもまったく困りません。便利な世の中になったものです。

というわけで、わが社も元旦から「中古車初売り」をやってみました。というのも「正月三が日は、びっくりするほど中古車がよく売れる」と聞いたからです。

SS業界人の私には、にわかには信じられませんでした。
しかし、何事も経験です。当社の平塚SSに併設した中古軽自動車専門ショップで「新春初売りセール」を開催しました。

5万枚のチラシ〈画像1〉を折り込み、店舗では、空高くアドバルーンを掲げ、商圏に大宣伝をしました。車両60台しか展示できない店ですが、中古車がたくさん売れてもいいように、在庫を100台用意しました。このためわざわざ駐車場を借り増ししました。

これを初売り特価でアピールします。
目玉は平成27年式、走行3千キロのアルトの最新モデル。新品タイヤ4本をつけ、破格の39万8千円。「持ってけドロボー!」セールと意気込みました。

結果は〈表1〉のとおり。惨敗です。敗因はこれから明らかになるでしょうが、次の仮説を立てました。

 ➊「軽自動車39.8万円均一という業態に、新鮮味がなくなってきた。
 ➋60台の展示台数は少な過ぎて集客力に欠ける。
 ➌オープンから1年、まだ地元に認知されていない。

新規の集客に苦戦

そもそも「現車を展示すれば中古車は売れる」という経験則があり、平塚SSの隣地が借りられると聞くや、これに直ぐさま飛びつき、コンサルタントに教わりながら昨年2月にオープンした店です。5年落ち5万km程度の比較的良質で安価な軽自動車を仕入れては陳列し、「39.8万円」の値札を付けて営業してきました。

主なターゲットは地元の主婦、若い勤め人、そして年金生活者などです。
彼らが車を買い替えたいと思った時、最初に当店を思い出してもらう、そんな存在になっておくことが重要です。ですから、この1年間、情報を発信し続けてきました。

見込み客の多くは普通の生活者です。車に強い関心を持っているわけではありません。ですから、自動車専門誌やインターネットより地域に密着した広告媒体の方が向いている、そう考え、毎月100万円の広告予算を、ほぼ新聞折り込みに投入してきました。

しかしながら、どうもこれだけでは地域への浸透速度が遅いような気がします。かと言って、当地では信頼できるポスティング業者が見つかりません。もっとローカルエリアなら、テレビCMなども試せるでしょうが、神奈川県湘南地域は費用が高すぎます。

つまり、平塚という地域は、ターゲットに対して確実に情報を到達させる媒体やメディアミックスの選択肢が不足しているのです。
こうしたマーケティング上の制約条件を事前に確認せず、「迂闊にオープンしてしまったなぁ」と反省しているところです。

中古車の出張展示に期待

平塚SSは市街地から3~4km離れており、周りは田畑が広がります。ときどき耕運機が通るような、のどかな場所に位置します。
よしっ!店の集客力が弱いなら、集客力のある場所へ出張してみてはどうかと考えました。
大型ショッピングセンターなどで、しばしば、新車や外車の展示会を見かけます。継続的にやっているところを見ると、きっと費用対効果が合うのでしょう。

調べてみると、JR平塚駅前のショッピングセンター内に、適当な展示場があることが分かりました。聞けば、地元のカーディーラーもよく使っているとのこと。

新車で効果があるなら、中古車だって可能性はありそうです。さっそく申し込みました。1月23~24日の2日間、中古車10台を展示する予定です(※原稿執筆時)。

費用は20万円。これは新聞折り込み4万枚分に相当します。つまり、2日間で4万人が来場すれば、新聞折り込みと同等、いや、それ以上の効果が出てもおかしくありません。

新聞折り込みの場合は、まず認知され、さらに来店してもらわなければ商談が発生しません。しかし、出張展示だと認知と来店は同時です。ただし4万人の中から興味のある人を見つけ出す工夫は必要でしょう。果たして「結果はいかに」-。ぜひお楽しみに。

中古車展示販売ビジネスは
迂闊に手を出すとヤケドする

さて1年間、中古車の展示販売を行ってきて、当初は思いもよらなかった苦労も感じています。中古車の仕入れから販売までの流れを<図1>に示します。

商品が売れるまで、毎日ピカピカな状態を維持します。陳列場所も変化させ、鮮度を保たなければなりません。

仕入れた車両の価値は、日に日に目減りしますから、売れない車は不良在庫となります。これを中古車業界では「チョウザイ(長期在庫)」と呼びます。早く見切りをつけて投げ売りしたりオークションに出品し直さないといけません。

そして何と、車両販売スタッフの業務時間のうち8割は、〈図1〉の網掛け部分に吸い取られてしまっていることに愕然(がくぜん)とします。直接お金を生まない作業に人件費のほとんどを投入しているわけです。

人件費だけではありません。田舎とはいえ、展示場や駐車場の賃料はパカになりません。そして何より車の仕入れに何千万円もの資金を投入しているのです。「現車があれば、車はホイホイ売れるのになあ」と安易にやってみたものの、リスクと隣り合わせのビジネスの「底なし沼」にはまってしまった感じです。

安易に撤退もできません。認知度が高まるまで時間はかかるかもしれませんが、試行錯誤を繰り返しながら、まだ頑張ってみようと思っています。

SS経営はモグラ叩き

話は変わります。
当社SSの「12月実績」がほぼまとまりました〈表2〉
ガソリン需要の低迷のためか、価格競争は熾烈です。口銭は0.3円しかありません。ただし油外収益は約1000万円増加し、経費が500万円減少したため、燃料指数はマイナス8となり、前年を大きく上回る黒字です(5SS合計値)。

油外の伸張を牽引したのは車販です。前年比倍増の48台売れました。本連載で前回述べたとおり、マイカーリースの新商品を投入したことが、車販を活性化しています。

ただ、11月に26台を売った寒川SSは、その納車処理が12月に担当者に集中しました。このため、12月の車販台数は15台に止まりました。でも他のスタッフの頑張りで、油外収益は1000万円を超えました。燃料油収益は200万円も落ち込んだにもかかわらず、230万円の営業利益を稼ぎ出すという、頼もしいSSになりました。

タイヤ販売は、真面目に取り組みを始めた仲町台SSを筆頭に絶好調です。12月は5SS合計で1269本(うち仲町台SSは557本)を売りました。ーーと、喜んでばかりもいられません。

車検台数の伸びに陰りが見えています。12月はとうとう前年を割ってしまいました。
不調の原因は店頭活動の低下です。折り込み、ミラーリング、インターネットなどによる商圏販売は依然として好調を維持しているのです。まったく、SS経営はモグラ叩きですね。一つ問題が解決すると別の問題が浮上します。

「車検はもう大丈夫。次は車販だ、タイヤだ」と私の関心が移ると、管理者も注意を払わなくなり現場は手を抜き始めます。これはもう、何十年も同じことの繰り返しですね。つくづく厄介な稼業です。

でも経営者があきらめてしまえば、それで終わりだと気をとり直し、店頭オペレーションを立て直したり訓練し直しているところです。

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