あちら立てれば、こちらが立たぬ
当社SSの車販ビジネス拡大のため、商品開発や店づくり、提携会社づくり、組織作り、スタッフ育成、広告宣伝や店頭イベント、オペレーションの改善などに邁進してきました。
その甲斐あって昨年より、赤字のSSが一気に黒字化するなど、競争力が格段に強化されました。
ところが一方、3年の歳月を費やしてせっかく軌道に乗った車検が、ここにきて下落し始めていることを、前月号で述べました。
グラフ1に見る通りです。
2012年までは、当社の車検台数は年間4,000台前後でした。これを3年かけて8,000台に押し上げました。「もう大丈夫」と慢心していたら、2016年4月現在、前年同月比87台も下落しているのです。このままでは元の黙阿弥になりかねません。
表1は油外収益の4月の実績です。
車販が前年比500万円以上改善したのに車検が足を引っ張りました。台数が87台下がり、200万円以上の収益減です。
まったく、何をやっているんだか・・・。
というわけで今回はまず、車検のテコ入れ策について述べます。
車検下落の原因が分かれば
対処療法が効く
車検台数の伸びに陰りが見えたことを受け、販促予算を見直したことは前回述べました。
次は店頭販売活動の強化です。
当社SSでは、車検が満了する日まで3カ月を切ったお客様をおすすめ対象としています。車番認識システムの活用により、対象客が毎日何人来店しているかすべて把握しています。5カ所のSS合計で、ざっと月間1,200人です。
このうち、どれくらいを店頭で獲得するのが妥当でしょう。
対象客の中には法人リース車両なども混じっていますし、声かけできるスタッフが常に店頭待機しているわけでもない、声かけしても商談に応じてくれないお客様もいます。ですから、商談できるのは50%くらいと見ています。
商談は、訓練を受け手順通り間違いなく実行できるスタッフにしかやらせません。そのスタッフを「車検名人」と称していますが、彼らが商談すれば40%以上は確実に成約します。
したがって当社では、「商談実施率50%x成約率40%=20%」を捕捉率の基準値としてきました。耳にタコができるほど「捕捉率20%」と言い続けたものです。
ところがどうでしょう。4月の活動実績を見てください(表2)。
捕捉率は平均14%。みんな基準値を忘れてしまったかのようです。成約率は平均61%と高いのはいいですが、商談実施率が悪すぎます。馴染みの話しやすいお客様とだけ商談しているにすぎません。
つまり対象客が来店しても、いつの間にか「どこ吹く風」の馬耳東風、みんなで渡れば怖くない・・・。経営者としては、到底看過できません。
すぐに店長たちを集め、評価ルールを変更しました。するとあら不思議、たちまち数字は挽回し、期待値を大きく上回りました(表3) 。
では、どのような評価基準にしたのか?
商談実施率が悪いのは、車検への意識が相対的に低くなったからに他なりません。仕事に対する優先順位の問題です。したがって、優先順位を上げさえすれば解決します。
しかし、これまで個人別の目標管理や報奨金などいろいろやってきました。これだけではもう効き目がありません。やれ「人手不足」とか「顧客が反応しない」とか言い訳ばかりします。
そこで店長たちに「捕捉率が20%を下回ったら、不足台数x2万円をSSの油外収益から差し引くぞ」と言い渡しました。車検を1台失うと約4万円の粗利が喪失します。せめて半分はSSが責任を負え、というわけです。
店長にとって、スタッフ個々の評価はあまり気にならなくても、店の評価が下がるのは一大事です。社長の言葉に馬耳東風だったスタッフたちも、店長が檄を飛ばすや否や、電流で撃たれたように行動が変わったというわけです。
このルールがいつまで効力を持続するか分かりませんが、まずはうまくいきました。
車販が活性化すれば
任意保険も伸びる
さて、車検にかまけて今度は車販実績が落ちたりしないようにしたいところです。
グラフ2は今年5月までの車販実績です。
昨年夏、個人向けオートリースを材料に開発した新商品「定額ニコノリパック」を投入したことで当社の車販は活気づき、販売台数合計が70台を超え始めました。1店当たり月15台です。
当面の目標は1店当たり20台。
目標到達がそろそろ視野に入ってきたと言っていいでしょう。
ところで私が車販に注力するのは、車検、レンタカーに次ぐSS収益の柱を求めたからに他なりません。
どんな商品が良いか。やはり車検、整備、鈑金、保険などアフターマーケットを根こそぎ囲い込める商品がいい—おのずと「車販」に行き着きました。
仮に月間20台の自動車販売を10年間も継続すると、SS来店客の半数以上を車販客で占めることになり、盤石の営業基盤を構築できます。これを夢見てあらゆる方法を試してきました。
安倍首相が放ったのは「3本の矢」ですが、私が放った矢は20本は下りません。ほとんど的にかすりもしませんでしたが、「定額ニコノリパック」の矢が見事的中したということでしょう。車販だけで年間収益が8千万円改善しました。
車販台数が増えただけではありません。1台当たり粗利も、前年は平均12万円でしたが、18.6万円に改善しました。これは「定額ニコノリパック」を機に新車の取り扱いが増えたことと、車販契約時に任意保険をよく売るようになったからです。
任意保険の販売については、元来、当社のSSは苦手で、あまり本気で取り組んできませんでした。しかし、湘南エリアにある平塚SSと寒川SSが真面目に販売してみたところ、3割が任意保険を契約してくれました(表4)。
そのうち75%を「3年保険」が占めます。「3年保険」とは、3年契約で保険料が3年間変わらない保険です。お客様は月々払いです。車販の契約時にお客様に説明すると大変好評で、スタッフも「とても売りやすい」と言います。ただ、SSに入る手数料も月々払いですから、毎月の契約が累積するにつれ大きな収入源となります。
このほど「定額ニコノリパック」の契約期間に合わせ、「5年保険」も取り扱うことにしました。リースに組み込んで販売できます。お客様は月々払いですが、手数料は車両代金と同様、SSに一括入金されます。
競合を知り、己を知る
さて、当社SSの車販ビジネスは個人オートリースでやにわにブレイクしているわけですが、SSスタッフも一人また一人と自信をつけつつあり、今後とも安定的に業績を伸ばして欲しいと期待しています。
しかし世の中、それほど甘くはありません。個人向けオートリース事業に続々と参入する事業者が増えているようです。
なかでもチェーン展開する事業者が目立ちます。これはリース会社、整備工場グループ、石油元売会社、大手コンサルタント会社などが主宰しています。
いくつかのチェーンの今年3月の実績を入手しました(表5)。
やや「眉唾」(まゆつば)な部分もありますが、参考値として見てください。
Eグループの1店当たり平均契約台数が突出していることが分かります。他の4~10倍以上です。商品内容に際立った違いはありません。チェーン本部が「商圏告知に広告費を投入せよ」と指導しているかどうかの違いだと思われます。
ただ、当社もおそらくEグループに負けないほど商圏告知活動を行っています。それでも2倍の差をつけられました。
その違いは何でしょう。
表6で比較したところ、➋既存の車販客数、➏地域性、➐業態が大きく異なると思われます。
➋既存の車販客数
Eグループは、30年前に残価設定ローンを発売して一世を風靡した自動車販売店のチェーンです。したがって車販客(管理客)の累積が多く、その乗り換え需要を基礎票として持っていると考えられます。
➏地域性
個人向けオートリースが適する客層は、複数の車を保有する世帯で、いわばセカンドカー的な用途、そして長距離ではなく街乗り走行中心のお客様です。軽自動車やコンパクトカーが比較的好まれる傾向にあります。したがってローカルエリアの店が有利です。
当社も寒川SSは車両保有率が140%の地域にある店ですが、他は車両保有率100%に満たない都会の店です。やはり寒川SSの方が、お客様の食い付きがいいようです。
➐業態
昨年6月に寒川SSで「定額ニコノリパック」を発売した時は、力一杯の告知とイベントでお祭り騒ぎをしました。でも、成約したのは4台でした。Eグループでは、何の変哲もない中古車屋さんが、初月で10台、30台、50台を契約していると聞きます。納得いきません。
「もしかして」と思いつくことがあります。
「車検」でつくづく感じてきたことですが、どんなに広告宣伝や販売努力を行っても、せいぜい月間250台がSS車検の限界のようです。車検工場チェーンのトップクラスの店は月間500台を超えているのに、当社SSは遠く及びません。
「車販」でも同様のメカニズムが働いているのではないか、すなわち「SSと車販はミスマッチ」なイメージを抱き、「SSでは頑として車を買わない」顧客層の存在です。
7月には、いよいよ当社の平塚SSでも個人向けオートリースを始めます。このSSは隣接して70台の中古車展示場、さらに前面道路の向かいには整備工場とセールスルームを構えます。
つまりSSとは独立した店舗イメージを打ち出しやすい店構えですから、もしかすると、この疑問に対する解答が得られるかもしれません。