SS全般

油外放浪記第116回「売ることばかり考えてたら お客様の気持ちと乖離していた」

相変わらず車検が不調

3月は、車検もレンタカーも(おそらく車販も)需要期でしたが、4月は一転して売れるものがありません。油外の季節需要は「一休み」といったところです。
でも、SSは休むわけにいきません。 したがって、例年4月は利益が落ち込みますが、今年は、直営5店で800万円近い利益を出せました(表1)

前年同月と比較すると、燃料油粗利が250万円増、油外粗利が500万円増を示しています。経費は400万円しか負担増とならなかったため、利益が350万円増加しました。
経費の負担増以上に、油外が増加したことは、投入と効果のバランスが健全であることを示します。まずは、ホッとしています。

当社SSの油外の主軸は、「レンタカー」「車検」「車販」ですが、相変わらず車検だけが不振です。
1~3月のキャンペーンでは、ドライブレコーダーをインセンティブにつけるなど、強力なカンフル剤を打ち何とか目標を達成したものの、前年実績には及びませんでした。そのキャンペーンが終了した4月は、入庫台数が88台減少、粗利は380万円減少という結果です。

現場は努力しています。
車検のマイナスをカバーしようと、洗車、鈑金、タイヤ、バッテリーなど売れるものは何でも売ろうと最善を尽くしてくれました。
その前線部隊に有効な戦術、武器、弾薬を送りこめなかった司令部、すなわち私は、粛然としています。

SS現場の頑張りに後方支援が追いつかない

かつてSSは、その構造物自体が収益の源でした。良い立地に億単位の資金を投入して建設すれば、自然にお客様が集まり、ガソリンが売れ、商売になったものです。

しかし、今日のビジネス環境は複雑化しています。需要の停滞、競争の激化などの外的要因もあり、前線部隊の努力だけでは突破できない局面が多々あります。

それだけに、商品開発、広告宣伝、顧客づくり、販売オペレーションの開発など、作戦司令部たる本社、すなわち経営者の重要性は増しています。前線に送るべき武器・弾薬はどこにも売っていません。ですから、自社開発するしかありません。開発が遅れると、前線は徒手空拳で戦わざるを得ず、いずれ玉砕します。

弾の飛んで来ない指令部にいて、私ものんびり昼寝しているわけではないのです。前号で述べたように、コールセンターの活用など、いろいろ画策してはいるのです。ただ時間がない、追いつかない、能力がない。苛立ちは募るばかりです。挙げ句、「ストレスを減らすチョコレート」を食べ過ぎて、太ってしまいました。

車検の紹介客が多いS社の方法は当店でも有効か

ふと思い出しました。
中部地方で5店の車検ショップを展開するS社の社長の話です。
車検は年間14,000台、1店当たり2,800台です。当社の2倍近い入庫台数ですが、流行りの「立ち会い短時間車検」による薄利多売方式ではありません。車を1日預かり、しっかり付加価値を獲得している会社です。

車検のリピート率は素晴らしく、8割です。ということは、残り2割の2,800台を、毎年新規客で補っていることになります。

では、新規客をどのように獲得しているか、聞いて驚きました。「ほとんどは既存客からの紹介」だそうです。
「その方法は?」と問うと、車検が完了して車を引き渡すときに、「紹介カード」を手渡ししてお願いしているだけ。
「おお、これはいい。お客様をセールスマンにするようなもので、コストもかからない。是非わが社でもやってみよう」と思い立ちました。

だが「ちょっと待てよ」と、頭の中で囁く声が聞こえます。
S社のリピート率は8割、対して当店のリピート率は約5割。顧客満足度に格段の差があるかもしれない。
事実、これまで紹介や口コミで来たお客様はごく少数だ。家族や知人に紹介するのが憚られるような車検では、(たとえ景品やお礼を積んでも)効果がないのではないか?」と考え直しました。

そこで、私はリピート率の改善について研究を始めました。すると、勉強すればするほど、「当社はこの20余年間、何とバカなことをしていたんだ」という事実が次々と判明したのです。絶望のあまり鬱(うつ)になりそうです。

毎年2,000人の不満客を生み出していた!

表2を見てください。


➊当店の車検の入庫台数は年間約8,000台です。
➋最新のリピート率は53%ですから、➌2年後には、4,240人がリピートしてくれることになります。
➍ということは、残り3,760人はリピートしてくれません。
その理由は、➎乗り換え、➏転居、➐他店に流出—することが考えられます。
➎平均的な車の使用年数を12年とすると、向こう2年間に乗り換えるお客様は1,333人。
➏年間5%が転居するとなると、向こう2年間に243人が転居します。
➐残り2,184人が、他店に流出したことになります。

これは恐ろしいことです。
年間2,000人以上が、当店に不満を抱き、去っているのです。
車検を20年間やってきたので、単純計算で4万人以上の不満客を作ってきたことになるのです。
あろうことか、「3対33の法則」というものを学びました。
お店のサービスに好感を持った人は、3人に「良かったよ」と話します(口コミ)。

逆に、不満を持った人は、何と33人に店の悪口を言うそうです。
もう絶望的です。毎年7万人に当店の悪口が伝わっています。20年間でのべ140万人。横浜市の人口が370万人ですから、単純計算では、子どもからお年寄りまでを含めて4割が、当店の悪評を耳にしたり、ネットで目にしているわけです。

こんなマーケットに対して、私は能天気にも広告宣伝を打ってきました。砂地に水をまくようなものです。せっかく新規客を獲得しても、賽の河原の石積みのごとく、徒労に終わっていたのです。

見て見ぬ振りをしていた不満の声

ではお客様は、当店の車検のどこに不満を持っているのでしょうか。
幸いわが社は、車検を実施してくれたお客様に対し、1週間以内にお礼の電話(サンキューコール)を実施しています。

当初は、担当した整備士が電話をしていたのですが、徹底できず、数年前からコールセンターの仕事になっています。電話した結果は全件記録しています。
私のところにもそのレポートは届くので、毎日、目を通しています。ほとんどのお客様は、「よかったです」「特に問題はありませんでした」「これからもよろしく」という回答です。

これを見た私も「うん、問題ないね」と満足していました。
たまに、厳しい指摘やネガティブな感想があるものの、「いつだって文句を言う人はいるものさ」と気にしていませんでした。
都合の良いところだけを見て、不都合な真実からは目を背けるアホ丸出しの経営者だったのです。

しかし、これを機に、サンキューコールの結果を改めて見直してみました。車検を取り扱って以来、実に20数年経ってから、初めて、お客様の声に真摯に向き合ったのです。
今年1~3月、当店で車検を実施していただいたのは5,139人、そのうちサンキューコールの電話がつながったのは2,830人、そのうちネガティブな声は153人(5%)でした。
その「不満の声」をざっくりと34項目に分類したのが(グラフ1)です。

お客様の声に、衝撃の真実があった!

「目からウロコ」です。
せっかく不満を漏らしてくれたお客様に対し、心からお詫びし、感謝しなくてはなりません。私の思いが、完全にミスマッチしていたのです。

私がこれまで心血を注いできたのは、車検の商品力の強化と販売促進でした。
商品力は機能を高め、価格を安くすることによって強化します。そこで、どこにも負けない商品にするため、設備投資をし、価格を抑え、「これでもか」と景品をつけてきました。

そしてこの商品を、来店客や商圏に「これでもか」と広告宣伝してきました。
むろんこれはマーケティングの理屈に則ったものであり、新規客の獲得に大きな効果があり、 決して間違った方法ではありません。

しかし、「当店の車検はこんなにお得で便利ですよ、ここまで魅力的な車検は他にありませんよ。だから、10万台も実績があるんです。すごいでしょう」「どうですか、文句ありますか」といった気持ちが、どこかにあったのでしょう。

売り手の自画自賛を押し付けてきましたが、買い手は、何の評価もしてくれていません。つまり、競合を蹴散らすパワーを持った商品や効率的な広告宣伝を、お客様は必ずしも望んでいないのです。

お客様はごく当たり前のことを、慎ましく言っているにすぎません。
「ちゃんと整備してください」
「整備した結果を、ちゃんと教えてください」
「分からないことは、説明してください」
「整備したあと、どんな具合か聞いてください」
そして、「調整や修正の必要を感じたら、プロのあなたが判断してください」。

ああ、恥ずかしくて顔から火が出そうです。
当社が見直すべきは、車検の「コスパ」ではなく「基本手順」そのものだったことに、初めて気づきました。

当社が見直すべきポイントを表3にまとめてみました。

  
これらの問題を虚心坦懐に見つめよう、そして現場とともに「PDCA(計画→実行→評価→改善)サイクル」を愚直に何度も回していこうと覚悟しました。

20余年間に失ってきた信頼を取り戻すのは大変でしょう。しかし、これも経営者の仕事です。

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