「走行燃費33km/L」2カ月に1回しかSSに来店しなくなる!
先日、出張先でレンタカー「プリウス」を借りてみました。
レンタカー料金は3時間で9,000円。「中古車レンタカーなら3,000円程度なのに・・・」と思いつつ、返却時にガソリンを満タンにしたところ、わずか3.9Lしか入りません。
思わずトリップメーターを確認して驚きました。走行距離は130km。実にL当り33kmも走行したわけです。
遅ればせながら、エコカーの省エネ性能を思い知った次第です。
今や「石を投げればプリウスに当る」と言われるくらい、同車は国内に普及しています。プリウスだけではありません。マツダもニッサンもホンダも、自動車産業全体が、ガソリンを食わない車の開発・投入を経営戦略の基本としています。
一般的なオーナードライバーの月間走行距離は、せいぜい500kmでしょう。プリウスなら、15Lしかガソリンを消費しません。つまり一度満タンにすれば、次にSSに来店していただくのは2~3カ月後となります。
SSの販売活動を見直す必要性
これまでSS業界のマーケティングは、1ヵ月に数回の来店があることを前提に組み立てられてきました。しかし省燃費車が普及すると、SSビジネスの前提条件がいろいろ狂ってきます。
例えば「今月末まで有効」という割引チケットを配布しても、その恩恵にあずかることのできるユーザーはほとんどいなくなってしまうのです。
ユーザーの車検ニーズが最も顕在化する時期は車検満了1~2か月前なのですが、そのタイミングに合わせて顧客にアプローチしていては、すでに間に合わなくなる、おすすめする頃にはすでに車検済みであるケースが多くなってしまいます。
これまでSSは、ガソリンの持つ「集客力」によって、洗車、タイヤなどの油外商品を販売してきました。しかし来店頻度が失われつつある今日、何とかしてこれを回復させる必要があります。
例えば極論ですが、「満タン給油するよりも、10L定量給油の方がお得」と訴えるSSが出現するかもしれません。
SSの来店頻度の向上を真剣に考えていく必要がありますが、我々の頭よりもマーケットの進化スピードの方が速いのが実情です。
ましてプラグイン・ハイブリッド車などが登場すると、買い物程度ならガソリンを使わず電気だけで用が足ります。ということは、SSに行かずに済むドライバーが現れる可能性があります。
ガソリン需要は限られ、元売会社の直営SS、量販SS、フリートSSなどは、少しでも大きなパイを切り取ろうと、なりふり構わない行動に出るかもしれません。それが本業ですから、ガソリンを売り続けるしかありません。
その一方で、特約店SSはわずかな顧客を守り、来店頻度増加策を講じながら油外商品で客単価を上げ、必死に食い下がろうと頑張ります。しかし多くはその努力もむなしく、ガソリン減少の大きな波に呑み込まれてしまうでしょう。
当社のSSも例外ではありません。
こうした事態を踏まえ、企業の事業軸をどこに向かわせればよいのか?実に大きな経営課題が目の前に横たわっていることを、「プリウス」を前に改めて認識させられました。
格安レンタカーの専業店の収益構造は、やはり厳しかった。
話は変わりますが、当社が運営している低価格レンタカー専業店である「新横浜店」が、ようやく黒字に転換しました。
低価格レンタカービジネスは、SSや整備工場などの業態が兼業で行うのが基本ですが、比較的マーケットの大きいエリアに事務所を借り、実験的に始めてみたのが、「ニコニコレンタカー新横浜店」です。(写真1)
開店したのは2010年3月です。事務所は新横浜駅の裏通りの古いビルの5階、にもかかわらず、レンタカーブランドの知名度を背景に、オープン初日からお客様が殺到しました。車を用意した分だけ売上も上がり、たちまち全国ナンバーワンの売上規模の店となりました。ところがコストがかさみ、なかなか赤字から脱することができません。
(グラフ1)は、レンタカー車両1台が稼ぐ月間売上とコストの構造です。
「兼業店」では税金や保険など、レンタカー車両にかかるコストしかかかりません。ですから車を増やすほどに、利益が増加します。自社物件の駐車場があれば、さらに利益が増えます。
しかし「専業店」では、人件費、事務所賃料などの固定費がかかります。良い立地が求められるため、駐車場も高くつきます。
「新横浜店」では事務所、駐車場、車両の受け渡し場所、洗車場がそれぞれ離れているため、さらに余計な人件費もかかっています。
ものすごくニーズがあるのに、車を増やすほどに赤字額が増大することが、実際にやってみてはっきりしました。一般のレンタカー店が、格安レンタカーの価格に追随できないわけが、ここにあります。
法人向け長期レンタカーをやってみた
そんな「新横浜店」も、客単価の高い車両の構成比を増やしてみるなど、いろいろ打開策を講じてみました。
しかし抜本的な解決策は見つからず、「いよいよ実験を終了し撤退しようか」という段階にありました。
けれども、撤退する前にもうちょっと実験してみよう、と始めたことの一つが、法人開拓です。
一般レンタカー店、特に都市部のレンタカー店のメインターゲットは法人客です。長期で借りてくれる場合が多いため、スタッフの労力も駐車場も軽減できるというメリットがあります。とは言え、果たして中古車レンタカーでも法人の需要はあるのでしょうか?
ニコニコレンタカーではマンスリーユースの料金は5万5000円(コンパクトカークラス)です。これを法人向けに訴求することにしました。
ところがよく調べてみると、これは決して安くはありません。オリックスもトヨタも、ビジネスユース価格の実態は、ほとんど変わりませんでした。やはり利用台数の多い法人客は、安値競争による激しい顧客争奪が展開されているのだと察せられます。
さて、当社ではまずローラー営業を開始しました。1日50社×20日間、合計1,000件訪問してみましたが、成約はゼロでした。これだけやってだめなら、これは方法が間違っているに違いありません。
次にチラシを撒いてみました。法人の購読率が高いと思われる「日経新聞」に折り込み、3万枚を3回、合計9万枚を撒いてみたところ、やっと1件成約しました。かかった販促費は45万円、それで5万5000円の売上ですから、全然だめですね。
そこで今度は、法人向けに「FAXチラシ」を送ってみました。
地域の法人のFAX番号データを持つ専門業者に委託して、5,000社にチラシをFAX送信してもらったわけです。すると問い合わせがありました。そして5台のマンスリー契約がとれました。かかった費用は7万5000円、売上は月額27万5000円です。これなら費用対効果は十分です。
それ以降このFAXチラシ作戦を継続しています。おかげで、マンスリー契約は現在15台となり、法人客から月間80万円以上の売上が得られるようになりました。
鈑金代車にレンタカーを利用してもらう
もう1つ、撤退寸前の「新横浜店」で試してみたのが、鈑金代車です。
調べてみると横浜市内には鈑金工場が550社あります。そのリストを元に3か月間ローラー作戦を実施してみました。
タオルを手土産に挨拶回りをし「新横浜にできた格安レンタカーです」「鈑金の代車ご利用ください」とお願いするわけです。実際に回ってみると、550社のうち100社以上はすでに廃業していました。厳しいのはSSだけではないですね。
さらに100社は開店休業状態で暇そうです。迂闊に飛び込むと、茶飲み話に2、3時間付き合わされるはめになります。
残り300社のうち、半数以上は保険会社が指定したレンタカー店が決まっていて、取り付く島もありません。
こうして最終的に、120社ほどが興味を持ってくれました。
鈑金代車のいいところは、その費用を保険会社が「代車特約」に従って支払ってくれるところです。車格に応じた料金が支払われ、長期の貸し出しになることも多くなります。
たとえば事故修理の車が鈑金工場に持ち込まれたとします。その修理期間中、保険会社がオーナーに代車を提供することになります。しかし実務上は、鈑金工場がレンタカーを手配し、レンタカー店がオーナーに車を届け、保険会社は修理費用を鈑金工場に、代車費用をレンタカー店に支払うわけです。
つまり鈑金工場が「○○レンタカー店で代車を手配する」と言ってくれれば、保険会社はそのレンタカー店にレンタカー料金を支払ってくれるわけです。
たとえば当社が中古車オークションから鈑金代車用に仕入れた中古ベンツがあります。鈑金工場がこれを代車に選んでくれると、保険会社は1日18000円を支払ってくれます。修理期間が1ヶ月に及ぶと50万円を超えます。
その半分を鈑金工場にバックします。すると当社は25万円の利益、鈑金工場は修理料金プラス25万円の利益が得られます。
鈑金工場の経営者と人間関係を作りつつ、こうした提案を地道に行うことによって、「新横浜店」は鈑金代車で月間140万円の売上(すなわち70万円の利益)が得られるようになってきました。
鈑金工場は零細店が多く、徐々に利用が増加しています。ご利用いただく鈑金工場を「ニコニコ友の会」と勝手に命名して、月に2回ほど「ニコニコ通信」なるFAX文書を送っています。堅苦しい話は抜きにして「こんな車が入荷しました!」とか「今月ご利用1台につき花見酒プレゼント」とか、当社と鈑金屋さんの関係を温めるようなメッセージを送っています。
こうして「新横浜店」はレンタカーの個人利用の他に、法人利用で80万円、鈑金代車で70万円が上乗せされ、撤退は当面延期となりました。
まだまだ楽ではありませんが、この方向で安定軌道に乗るよう頑張っています。
「ほっとけ油外」を主張してきた私が、こてこての”ドブ板”営業によって専業レンタカー店を強引に収益化しようとしているわけですから、まさに「油外放浪記」ですね。とは言え、前段にも述べたとおり、SSの来店客数の減少が”すぐそこにある危機”であるのは間違いありません。こうした事態に備えるためにも、来店頻度を上げる工夫と、そしてSSに来店しなくても売れる事業領域を考えていく必要があります。