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油外放浪記第35回「「アジアンタイヤ」の実験販売 タイヤも”ほっとけ販売”できるか」

10年の長いレンジでとらえた「カーケア市場」成熟の凄さ

前号の冒頭で「アフターマーケット市場が縮小している」と述べました。 
大まかな見立てでそう言葉を発したのですが、手元にある、せいび広報社の「経営戦略データ2011」で関連データを確認し、これをグラフ化してみました。

2001年に98千億円だったアフターマーケットは、2011年に78千億円となり2割減少しました。この10年間で2兆円、一つの産業に匹敵する市場規模が失われたことになります(グラフ1)。

この10年間で自動車保有台数は増えていますが、車1台あたりの年間利用金額を見ると、約25%減少したことが分かります(グラフ2)。
つまり、車1台あたり年間32千円、月間2,700円もの油外収益が減少したのです。

10年間の変化を販売チャネル別に示したのが(表1)です。

カーディーラーとカーショップがともに頑張っています。自動車販売や用品販売に軸足を置きつつ、車検整備に力を込めてきた様子が窺えます。一方で、そのあおりを食い、整備工場やSSが後退しました。

ガソリン市場も競争が熾烈ですが、カーケア市場もまた然り。成熟市場にあって、多様な業態が参入し「優勝劣敗」をより鮮明に浮かび上がらせています。どうも昔のように商売がうまくいかないな、と思っていたら、そこにはこういう激しい市場の変化があったわけです。

アジアンタイヤの取り扱いにメカニックたちが猛反発

既存業界の土俵の上で戦うためには、戦術、武器、人を精鋭化しなければ勝てません。しかし、今の経営環境ではそれもままなりません。「人」に頼らず、「仕組み」で売れないだろうか。すき間市場を狙えば、商機が広がる。またそこに他業態にはない商品やサービスはないだろうかと考えていたところ、「タイヤ」が浮上しました。

タイヤ市場は、大手メーカー数社のブランド(ナショナルブランド=以下、NB)が圧倒的な強みを持ちます。品質と安全性の両面で、長年をかけて顧客の信頼を勝ち得て、また、これをベースにしてタイヤの小売り価格が維持・形成されています。
そのタイヤ市場の枠組みの中で、多様な業態がせめぎ合っているのが現状です。

そういう所にあって今回、私が着目した坊は、アジアンタイヤです。これすなわち、台湾、韓国、インドネシアなどアジア各国で製造される輸入タイヤのことを指します(表2)。
アジアジタイヤを取り扱う専門サイトもあります。インターネットで注文を受けると、宅配便で届けてくれます。購入者は、最寄りの取次店で1本あたり1,500円程度の工賃を支払い、タイヤを装着します。

さらに調べてみると、すごいことが分かりました。このwebサイトは、毎月16万本・年間192万本ものタイヤを販売しているのです。
ピンとこないかもしれませんが、当社の直営SSがある横浜市都筑区に話を置き替えると、このようになります。

都筑区の人口は20万人。国内の総人口1億3,000万人のうち、0.15%を占めます。
仮に、アジアンタイヤの需要がすべてこのwebサイトに集中し、年間192万本だったとします。その0.15%とは、2,880本、すなわち自動車720台分です。都筑区には、これだけのアジアンタイヤの潜在ニーズがあることになります。

実際のところ、当社の直営SSにアジアンタイヤを持ち込んで「装着してほしい」と依頼されることが頻繁にあります。
日本市場において、輸入タイヤが価格の安さを武器に勝負するというのは、過去にもありました。しかし、信頼と安全性を謳うNBタイヤの強さに太万打ちできず弾き出されてきました。

私自身も自動車タイヤにはブランド信仰をもっていましたし、アジアンタイヤを「ウチの店でも取り扱ってみようか」と当社のメカニツクに尋ねたところ、猛反対に合いました。
「あんなのは風船ですよ」「いつバーストしてもおかしくないですよ」などと親の仇のように嫌う目つきです。

ところが、ネット上でアジアンタイヤの購入者や販売店のコメントを読むと、おおむね良好であることが分かります。また近ごろは、NBタイヤメーカーがOEM供給(相手先ブランド製品)で取り扱い、アジアンタイヤを海外生産しているようです。

そこで私自身が実験台となって、マイカーにアジアンタイヤを装着してみました。これまでずっとNB高級タイヤを使用してきた私にとって、6分の1の支払い料金で済みました。
そして実際に使ってみると、特に違和感を覚えません。そこで当社のメカニツクたちの愛車にも装着してもらいました。すると、彼らも「案外いける」かもしれないと意外な反応を示しました。

アジアンタイヤを見てからNBタイヤを買うユーザー

アジアンタイヤといっても、国際規格に適合し、「PL(製造物責任)保険」できちんと保証されたものです。
ここはひとつ、実際に取り扱ってみて、市場の反応を検証してみようと考えました。

その先として選んだのは、当社直営の所沢SS(埼玉県)です。市街地から離れた郊外店であり、消費者の価格選好性の強い地域です。最近、便利なバイパスス道路が開通し、そこに元売子会社などの新規SSの出店が相次ぎました。そのため、一気に客数が落ちてしまいました。
その所沢SSで「新品タイヤ4本9,900円」と告知してみました(写真1~3)。店頭POPとタイヤの陳列をしただけです。

キャンペーン形式で行うと、他の油外販売が落ち込んでしまうので、特別な販売活動は一切しません。SSスタッフが声かけをしなくても、お客様の方から、「売ってほしい」と言ってくれる「ほっとけ商品」のラインナップとすることを目指しているわけですが、果たして売れるでしょうか?

7月22日~8月7日までの期間の販売実績は(表3)のとおりです。17日間で計21セット(84本)が売れました。そして、まだ購入には至らないまでも問い合わせ件数が31件あります。
面白いのはその内訳です。 アジアンタイヤが13セット、NBタイヤが8セットという具合に売れました。店頭POPにつられて、幾人かが展示タイヤを見に来てくれます。まだデータが乏しいですが、4割くらいのお客様は迷った挙げ句、NBタイヤを選んで購入しています。

つまり、アジアンタイヤが「客寄せパンダ」となり、お客様のタイヤの購入ニーズを顕在化させたのです。安価なタイヤをラインナップすることにより、お客様の選択肢が広がりました。
同時に、これまでSSでタイヤを買うことのなかった低価格志向の顧客をも、新規に呼び込むことができたと思います。

SSはアジアンタイヤの販売に適した業態だ

多くのSSはNBタイヤとの結び付きが強いと思います。しかし、アジアンタイヤ自体は珍しいものではありません。
アジアンタイヤの販売チャネルは大きく2系統あります。
まずーつは、先述のインターネット通販です。もう1つは、中古パーツの専門店です。そのなかには上場企業のチェーン店もあります。

インターネット通販は便利なものですが、現実問題として、一般家庭がタイヤの宅配便を受け取るのは大ごとです。そして、これを車に積んでお店に持ち込み、交換作業をしてもらうのです。そこまでして、安いタイヤを求める人は、実は少ないのではないでしょうか。

では、中古パーツ店に行けばいいかというと、これはこれでマニアックな店構えと品ぞろえなので、一般の人は敬遠しがちです。アジアンタイヤは、もっぱら店の入り口付近に置かれています。しかし、中古パーツ店を訪れる来店客の多くは普段から、店内奥の高級中古タイヤ売り場にて、店員さんと熱い会話を楽しんだりしています。そういう店なのです。

どうしても安いタイヤが欲しいにもかかわらず、「通販は面倒くさいし、中古パーツ店には行きたくない」。もしそんな客層が一定数存在するならば、不特定多数のドライバーが気軽に立ち寄り、その場でタイヤ交換をしてくれるSSが、もしかしたらアジアンタイヤの最適な販売チャネルになるかも分かりません。

もちろん、この話はNBタイヤを否定するものではありません。仮説ですが、アジアンタイヤを「呼び水」にして、SSのNBタイヤの販売にも弾みが付くのではないかと考えます。
アジアンタイヤの販売シェアは2%です。もし月間販売量が300klのSSなら、顧客数は5,000台ですから、アジアンタイヤのユーザーは車100台分、存在することになります。
さらに、これまで「SSのタイヤは高い」と思い込んでいたお客様が注目します。

店頭POPや陳列しているタイヤを見て関心を示すお客様に対し、「安いでしょう。でも、それだけではありません。品質保証がしっかり付いていますよ」などと声掛けします。あとは、幅広い価格帯からお客様に選んでいただきます。

作業工賃が収入として入ることだけが魅力ではありません。
タイヤ装着時に車両点検をして、他の部品交換や車検の事前予約につなげられる一連の流れを見い出したいと考えています。

タイヤも「ほっとけ油外」にできると思います。ぜひそうしましょう。

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