油外放浪記

油外放浪記第37回「ユーザーから車を仕入れ長期に運用する」

省燃費志向がSSを直撃!

「エコカー」の普及による燃料油販売市場への影響が、そろそろ出てきているように思います。この夏は本当に暑い日が続きましたが、ガソリン価格は軟調でした。7~9月の3カ月間でL当たり10円前後も下落したのではないでしょうか。

これだけガソリン価格が安くなったにもかかわらず、県単位でも、二桁マイナスの割合でガソリンが減販する事態に陥っています。この事態については、「景気低迷による買い控え」だけが理由として説明できないように思えます。

環境省の資料によると、乗用車に占める「エコカー」の比率は、2020年に20%近くまで達するそうです(グラフ1)。しかし、国が予測する以上に高度な技術が開発されたり、製品の低価格化が早まるかもしれません。

私が若い頃は、とにかく格好いい車に乗ることがステータスでした。「アメ車」に乗りたくて仕方なかったものです。燃費は4~5km/L。燃料の大量消費さえもステータスでした。
ところが今のお客様は、省燃費志向です。燃費にナーバスであり、「プリウス」や「ワゴンR」のようなエコカーに人気が集中しています。自動車メーカーによる自動車開発の狙いも、いかに1L当たりの走行距離を伸ばせるかに焦点を当てて、しのぎを削っています。

前月号の本欄で述べたように、ガソリン1Lで走行距離30kmを刻む車が普及し始めています。これはSSにとって、顧客の来店頻度が劇的に減少することを意味します。週末ドライバーなら2~3カ月に1回の給油で事足ります。

つまり、私たちSS業界がこれまで培ってきたマーケティング戦略や販売手法は、前提条件から崩壊します。
これに追い打ちをかけるように、アフターマーケット市場も急速に縮小しています。10兆円あった関連市場は8兆円になりました。デフレ・価格破壊に見舞われ、「100円ショップ」を利用するのが当たり前のこととなったため、ちょっとしたノベルティでは、消費者は反応しなくなりました。

かつては、すべてのSSが「燃料油+油外」という同じベクトルを描いて突き進んでいましたが、その考え方は過去のものとなりました。
SSの商圏特性や個性で最適な戦略を選択する時代を迎えたのだと思います。

高収益レンタカー店の閉鎖

さて当社では、あるSSのセールスルームを間借りして「テナント型中古車レンタカービジネス」の実験を行っています。「大家さんSS」は、首都圏にあります。敷地面積は180坪、燃料油販売量は月間150kl。毎月80万円の赤字が累積していました。
商圏環境は悪くないので、家賃を支払ってレンタカー事業を始めました。その責任者に抜擢したのは、60歳を超える高齢スタッフです。真面目だけが取り柄といっていいでしょう。前職では、「真面目だけど、利益貢献度は低い」とマイナス評価のレッテルを貼られた人物です。その高齢スタッフがアルバイトを使い、月に最大400万円の収益を稼ぎました。接客受付、駐車場との往復、点検清掃といったレンタカー業務を黙々とこなしただけです。

こうして「テナントレンタカー店」は毎月黒字を計上し、「楽に稼げるビジネスモデル」となった矢先のこと。「大家さんSS」が突然、閉鎖することになりました。このレンタカービジネスをそっくり移管すれば、「大家さんSS」の赤字体質はたちまちのうちに解消するのですが、先方の事情でこれが叶わず、残念ながら、店子(たなこ)である当社も撤退することになりました。

ただスタッフも車も、他の直営店へ振り向ければ、その分稼ぎますから、当社にとって損失は、ほとんどないと思います。

お客様から車を直接買えば、コスト負担は10分の1

(グラフ2)をご覧ください。これはお客様が車を手放した後、その車の価格がどのように変化するか示したものです。

車買取業者は、ユーザーから例えば5万円で車を買い取ります。これをオークションに出品し、利益を得ようとすると手数料などを含め、落札価格は13.7万円となります。
車両をオークションで落札した業者は、車検を通したうえで商品化します。そのコストは合計すると25.9万円になります。
中古車レンタカー店が車両を仕入れてレンタカーとして取り扱うには、一般的にこれだけの費用がかかります。しかし、中古車販売店の場合、さらに利益を加算し、40.9万円という販売価格をつけることになります。5万円の車が40万円以上で店頭に並んでいるわけです。もしもお客様がこの実態を知ったなら、面白くないでしょうね。

では、中古車レンタカー店が、自動車ユーザーから車を直接購入したらどうでしようか。
買取店や販売店、オークション会場などの中間利益はありませんから、仕入れて商品化するのに17.2万円のコスト負担で賄えます。

仮に、100台のレンタカーを用意するとして、オークションから仕入れれば、2,600万円。中古車店から仕入れると、4,100万円。しかし、お客様から仕入れれば1,700万円で済むわけです。この差は大きいでしょう。

中古車レンタカーは車1台当たり標準7万円、都市部だと10万円前後を毎月稼ぎます。お客様から直接仕入れれば、2~3カ月で償却できる計算です。
こうしてレンタカーとして2年くらい運用し、しっかり稼いでもらいます。その後もなお、元気に走る車はどうするか。本連載でも何度か紹介しましたが、「格安カーリース」として運用します。

タダで仕入れた車が60万円を稼ぐ

私の愛車の走行距離は現在25万kmです。オークションに出品しても値が付かず、廃車にするしかないと言われる車ですが、なんの支障もなく走ります。もちろん現役で毎日乗り回しています。
このように走行10万kmを超えてもなお元気な車は、市中にたくさんあると思います。
これを無料で引き取り、整備して1日500円のリース科で賃貸します。

また、中古車レンタカーを取り扱っていると、走行距離が10万kmを超え、レンタカーとしては「少々不都合があるけれどもちゃんと走る」「廃車にするには惜しい」–そんな車がどんどん生まれます。

これを1日500円でリースするのです。リース契約の最初に、名義変更手数料をもらうので、そんな車が3年間稼働すれば、60万円を稼ぎ出します。税金や自賠責保険料を差し引いたとしても、仕入れゼロの車や償却済みの車が、40万円以上の利益を生み出すわけです。
果たして、ここに需要はあるのでしょうか。

まず国内において、1日500円で車を利用できる手立ては他に存在しません。単純に「安い」という理由から、苦境に端ぐ中小企業の事業用車として、あるいは、ワーキングプアーと呼ばれる人たち、多重債務でローンを組めないけれども車がないと生活できない–このようなユーザーニーズにおそらく対応できるでしょう。

それから、新車を購入したものの納車待ちという方がいます。人気車種だと3~4カ月待ちは当たり前のことですから、その聞の「つなぎ」として利用することが考えられます。短期の転勤で、転勤先での「足」が必要という方もいるでしょう。

このように既存ビジネスでは対応できなかったニーズが存在し、「1日500円リース」によって、それが一気に顕在化するのではないかと考えました。
1年以上前から特に告知もせず、SS店頭で慎ましやかにやっていたのですが、この夏に10数台のリース用車両を用意して、ホームベージ上で告知してみました。弊社レンタカ(ニコニコレンタカー)のホームペ ージの片隅にもリンクバナーを貼ってみました。

その途端、引き合いが殺到し、わずか5日間で在庫がなくなってしまいました。慌ててホームページを閉鎖した次第です。(表1)は、弊社がリースした、車の入手方法・仕入れ価格・現在までのリース売り上げをまとめたものの一部です。

実際にリース車両として稼働しているものは60台以上ありますが、本稿の執筆時において、これが正確に把握できたものであることを一言お断りしておきます。

(表1)3行目の「日産キューブ」をご覧ください。これは廃車として無料で引き取ったものです。平成21年5月からリースを開始し、2人の利用者によって計30カ月間稼働し、64万円を稼ぎました。今年7月からは、新たな利用者が7カ月間のリース契約を結んでくれました。

8行目の「トヨタカルデイナ」もよく稼いでいます。7,000円で買い取った車ですが、リース契約は法人を含め現在8人目、累積72万円の売り上げです。
これらリース車両の調達価格は平均4万7千円、現在までの売り上げは平均440万円です。投資利回り10倍という、とんでもなく投資効率の高い「金融商品」と、みることができるかもしれません。

売り切るか安定収益源にするか

—という美味しい話ですが、落とし穴がありました。
当社は直営の4カ所のSSで「廃車・不要車買い取ります」と謳っています。ひと頃に比べて減ってはいるものの、毎月20台以上の車を引き取っています。

その車をどうするかはSSの判断に委ねていました。例えば、「まだ市場価値がある」と判断した車はオークションに出品します。すると、意外といい価格で競り落とされることがあります。「オンボロでどうしょうもない」と判断した車は、スクラップ業者に買い取ってもらいます。近ごろ、クズ鉄市況は上昇傾向にあり、車1台につき3~4万円になります。

これらの方法は即収益化でき、駐車スペースなどのコスト負担が掛かりません。しかし、レンタカーにできる車なら、1年間運用すれば100万円近くを、リースにできる車なら、年間20万円を稼ぎます。

ところがどうもSSスタッフは、「長期的に運用して安定的に利益を稼ぐ」という視点が欠如しているようです。彼らは、目先の収益目標を達成することがまず第一、SS業界あるいは自動車業界のDNAなのでしょうか、「その場で決着をつける」という考えにとらわれがちです。

リースした車両に対しクレームやトラブルも発生していますから、そういった面倒に関わりたくないという気持ちもあるのでしょう。これには私自身が評価制度の仕組みや法的対応措置の在り方について考える責任があるのですが、経営と現場の間での温度差をなかなか解消できず、苦労しています。

最近は、自動車解体業者が「リボーンカー」と銘打ち、再生車の格安リースを手がけています。中古車販売業者の一部でも格安リースを謳っています。しかし、業界全体としては、オークション取引の価値がない、すなわち廃車にするしかない低年式車の活用についてあまりに無関心です。そうであるにもかかわらず、「車を安価に利用したい」、すなわち低価格レンタカーや、そのリース需要は確実にあります。

自動車関連業のなかでお客様にとって最も身近な存在であるSSが、競争の少ない世界で「先行者」として安定的な収益源を確保する絶好の機会だと思います。

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