SS全般

油外放浪記第166回 油外販売「膨張」の光と影

油外増収するも投資回収はこれからが本番

いつものように、まず当社のSSの6月実績を振り返ります(表1)。
油外粗利は8店合計で1億5,200万円。前年同月と比較すると約2,900万円増加しました。
営業利益は1,200万円となりましたが、前年比較では700万円増にとどまりました。

このところ、経費が前年比1,500~2,000万円のレベルで増加しています。レンタカーの増車、中古車架装部門や車両配送体制、カスタマーセンター、車両管理システムの導入など、多額の資金を投入しSSの販売支援インフラを強化してます。これらが真に先行投資となり、今後の収益拡充に結実することを願います。

地道な販売力強化が実を結んだ所沢店

SS別に見ると、6月は2つの異変が起こりました。
当社第1号店である仲町台店は、営業利益においても優等生。2016年5月以来、トップの座に君臨し続けてきました。年間営業利益は2019年に初めて5,000万円を超え、続く2020年、21年と2年連続1億円を叩き出す、圧倒的一番店です。

その仲町台店を、6月、何と所沢店が超えてしまいました。仲町台店の営業利益310万円に対し、所沢店は390万円。「アッパレ!」というほかはありません。

所沢店は、横浜市の本社から最も遠い、埼玉県郊外のSSです。2005年に運営継承しました。任命した店長は、当地に骨を埋めるつもりで自宅を購入、家族ごと転居する不退転の決意で臨みます。
しかし、競合環境の激化や不利な立地条件により、長らく赤字に喘ぎました。現在も燃料油口銭は当社SSではワースト1、2を争います。駅から遠く人口密度の小さい市街化調整区域にあって、最も安易に収益が上がるはずのレンタカーは10年間頑張って鳴かず飛ばず。当初、月販600klあった燃料油販売量は、一時100kl台に沈み、会社としては「撤退」の二文字が幾度もちらつきました。

店長が踏ん張りました。奇をてらうこともなく、販売力を地道に積み上げ、2015年以降は安定黒字を維持。新規客に対する会員化率は、常に当社のトップレベルです。車検販売も標準手順を愚直に繰り返しています。レンタカーも他店の成功を素直に信じ、すべて新車に入れ替えたことで、次第に顧客からの支持を得るようになってきました。

驚くことに、車販の商談でさえアルバイトが担当しています。真摯に人の育成に取り組んできたことが分かります。
目立たない、スレていないスタッフが多い印象です。着実に1人ひとりの底力を積み上げ、ついに仲町台店に並び、追い越すまでになったのだと思います。

6月の人件費効率(油外粗利÷人件費)を計算すると、仲町台店275%に対し、所沢店は309%です。マンパフォーマンスの高さが数字にも現れました。

もう一つの異変は堀之内店です。
460万円の赤字を出してしまいました。これについては後述します。

前期に蒔いた種を今期収穫する

さて、当社の会計年度である第36期が、6月で締まりました。総括しておきたいと思います。
36年前、当社はSSのマーケティング支援会社として創業しました。当時、「油外」という概念は希薄で、ガソリンを売るほど儲かる時代でした。
したがって、当社の仕事は、ガソリン販売量を2倍増、3倍増するための販売促進、これ一本槍でした。

ところが、1996年3月末にガソリン販売が自由化(「特石法」廃止)されます。それ以降、販促プランの仕事は「油外」という難解なテーマに変わります。
その実験場としてつくった店も次第に増え、今年7月時点でSSが8箇所、指定工場4箇所、鈑金工場2箇所、レンタカー専業7箇所。自動車関連事業に幅広く展開してきました。さらに、中古車架装センターやコールセンターなど、インフラづくりにも投資してきました。

当社にご期待くださるテーマも、ガソリン販売量から油外粗利に移り、今はコスパ重視、すなわち営業利益が追求されるようになりました。
いつの間にか従業員も増えました。現在約500人(うち正社員約200人)。年々重くなる責任に押しつぶされそうです。
第36期(2021年7月~22年6月)の売上高は、117億円。このうちSS部門は73億円と過半を占めます。第36期のSS事業の総括を(表2)で示します。

高収益店が一転迷走

当社の売上高は、ここ5年で倍増しました(グラフ1)。
取扱商材が増え、事業拠点が増え、従業員も毎月のように増え、販売方法は目まぐるしく変化しています。

これを「拡大」と言うべきか、「膨張」と言うべきか。
ロジカルに計画を立て、紆余曲折しながらも邁進し、若者がどんどん責任ある役職に就き、現場が活気づき、「なかなかいい眺めではないか」と悦に入っていましたが、最近その「影」の部分に気づかされる局面に、いくつか遭遇しました。

ガツンと頭を殴られたのが、堀之内店です。
東京都八王子市の住宅地に600坪の物件を借り、2018年末に自己投資で立ち上げた新設店です。商圏・立地ともに申し分なく、同時6台の給油設備、広く明るいセールスルーム、指定整備工場などを構えました。

損益分岐点は2,000万円/月と高くつきましたが、そのポテンシャルに期待し、気合いを入れて立ち上げ、9カ月目以降は完全黒字化、2年半で投資回収を果たしました。

早晩、仲町台店を凌駕するにちがいないと、全社員の夢と希望が託された店です。しかし、今年に入って急速に不調に陥ります。 とうとう6月は赤字を計上しました。

店長未経験者にいきなり高度なマネジメントを任せてしまった

理由ははっきりしています。
今年1月に店長を交代しました。前任店長を新事業プロジェクトの主力メンバーに起用したため、後任に、当社の古株で同店の車検検査員で実績のあるO君を充てました。
O君はスタッフからの信任が厚く、モチベーションも高くやる気満々。ただ、マネージャー経験がありません。そこで近くの新百合ヶ丘店の店長が「統括店長」としてバックアップの役目に就くことになりました。

初めて参加する店長会議。改善策を指摘したり本社企画を通達しますが、どうしても行動が後手後手に回ってしまうのは、やむを得ません。

当社は、油外粗利が月間平均2,000万円を超えた優秀店に「2000万倶楽部」という称号を与えています。第1号は、仲町台店。1995年にオープンしましたが、苦節17年で勝ち得た栄誉ある称号です。

第2号店が堀之内店。オープン2年目にして「2000万倶楽部」のステータスを得ました。O君の悲劇は、このとんでもない優良店を、店長未経験者にもかかわらず任され、いきなり従来以上の実績を期待されたことにあります。
未経験者でも「プレジャーボート」クラスなら、すぐに慣れます。しかし、50万トン級の操船を任されたことに、O君はやにわに気づいたのだと思います。

不利な状況にも活路を模索

実は、堀之内店は開業以来、構造的な弱点を抱えています。
ひとつは、最初から自己投資で可能な限りカーケア設備をつくったため、損益分岐点が非常に高いのです。そのため、常に2,500万円以上の油外粗利が求められます。

もう一つは、人的販売力の弱さにあります。近隣に大学が多いため、アルバイトスタッフを苦もなく採用できます。ところが燃料油とレンタカーだけで、未経験の(たとえ運転免許がなくても)アルバイトで運用できます。現に、堀之内店は、開業数カ月でレンタカー車両を100台用意し、その平均売り上げは1,000万円を超えます。

燃料油とレンタカーだけで損益分岐点を突破することはできません。車検販売や自動車販売が不可欠です。しかし、堀之内店は、前述の所沢店のように、じっくり人を育てることができません。学生は、卒業したら店を去るからです。そしてまた、新人が入ってきます。この繰り返し。

そこでO君は統括店長と相談し、限られた人的資源(正社員や長期バイト)を、「車検」よりも生産性の高い「車販」にシフトしようと考えました。いわゆる「選択と集中」戦術です。

いくつもの不運が重なった

その結果、車販粗利は半期で前年比307万円増加しました(表3)。

その一方で、車検粗利が激減したわけですが、折しも本社方針で「車検販売は、広告宣伝主体から人的販売主体に転換する」と決定。これはO君の不運でした。なぜならカスタマーセンターが獲得する車検も減ってしまい、想定以上に車検収益がダウン。半期で640万円マイナスとなりました。

燃料油口銭も落ち込んでしまいました。原油価格高騰など外的な要因だと思いますが、これもO君にとっては不運でした。

経費が半期で1,575万円増加しました。これは本社の先行投資であって、O君が与り知らない経費です。
こうした不運が積み重なり、営業利益は前年の3分の1となってしまいました。

営業利益至上の評価基準に大きな欠陥

明るく屈託のない笑顔が似合うO君ですが、心も体も疲労し、とうとう病床に臥せてしまいました。6月の赤字はその結果です。
思えば、O君は実に敢闘してくれました。与えられた資源をフル活用し、油外収益だけで見ると9%改善しています。

燃料油の落ち込みも、経費の増加も、決してO君の責任ではありません。けれども職務に忠実なあまり、O君は自身の無力さを気に病み、責任の重圧に押しつぶされてしまいました。

利益第一を旨とした当社の評価基準では、O君の功労を評価できなかったのです。これはひとえに社長の責任です。
まずはO君を見舞い、ねぎらい、そして評価基準を見直すことが、私に課せられた急務です。

「一将功成りて万骨枯る」という諺があります。一人の将軍の輝かしい功名の陰には、戦場で命を落とした数多くの兵士があるという意味です。こうなってはいけないのです。

会社は株主のためでなく、従業員のためにあるのだと私は考えます。この忌むべき事態を作り出してしまったことを猛省します。

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